現場と語る3 病院経営から地域経営への移行を期待する

2013年9月20日

月に1回は、地方に行き、現場の皆さんと話をすると思いたったものの、福井と東京の二重生活が結構忙しく、現場を見る機会を作ることが難しくなっているのが、残念なところですが、今月は、何とかその機会を作ることができました。

場所は、和歌山県の田辺市に所在する国立病院機構南和歌山医療センターです。

 

この病院に訪問するのは、今回で4回目・・話をするのは3回目となります。

当初は、夏前に訪問の予定でしたが、他の病院から依頼されていた講演について、その病院に対して、国立病院機構本部の副理事長から、私から見れば遠回しに「中止の圧力」をかけるという理解できない行動があったこと(私に直接言えば良いだけなのですが・・)から、その後の国立病院機構との関係は全てお断りしたのですが、「経営自立ができた今、病院の将来について、改めて考えるきっかけとしたい」との強い依頼があり、今回実現したものです。

 

この病院の中井院長とは、私が国立病院機構本部の財務部長であった時に、本部でお会いしたのが最初です。
当時は、国直営時代の病院建設に伴う多額の借金を抱えた状態で、独立採算を原則とする国立病院機構に移行し、医療機器の更新もままならず・・隣接する他の公的病院との競合で苦しむという状態でしたが、この病院をモデルとして、病院共通のいくつかの支援策を本部として新設して、双方で改善に取り組んできたという印象があります。最終的には、院長をはじめとする現場の病院スタッフの努力による成果ですが、平成24年度決算では、事業損益率が10%に近い業績を出すまでに至りました。病院経営としては、一つの到達点に来たということです。
 

さて、こうした経営改善の実績を背景に、国立病院機構本部では、現在、「民営化」の方針を水面下で調整しているようですが、残念ながら「非課税の継続」をはじめとする事業体の短期的な利益をいかに確保するかが重視されていること、また、これを実現するために、調達改善の取り組みが停滞するなどの状況が漏れ聞こえて来て・・残念に思っているところです。
私自身、民営化自体は賛成ですが、その意味するところは、これから特に地方では、病院の経営努力で確保した原資を、医療ばかりでなく弱体化する地域を支えるために、自由に使えるようにすべきであるということです。地域を支える診療所の展開、地域の医療・介護従事者の質の向上、高齢者居住の場の確保、住民の移動の足の確保などの多様な取り組みを進めつつ、利益の一部を、地方税、固定資産税等の形で地域に還元することを目指すべき(いずれ、通信等で詳述する予定)と考えています。

 

こうした考えも背景にしつつ、今回は、院内の研修会で講演するという形式をとりましたが、その後の夜の会合(番外編)とあわせての会です。

講演では、和歌山県の患者動向・将来の人口推計(医療圏・市町村別)から始め、国の政策がもたらす病院行動の変化の必要性について概観し、最後に南和歌山医療センターに期待すること・・という順番で話をしました。最後のパートでは、脳梗塞で四肢麻痺になった私の姉の事例から感じたこと、こうしたことを田辺医療圏では起こして欲しくないことなども話すことになりましたが、経営自立できた病院では、ぜひ、これから急速に衰える地域をどのように支えていくかという視点で新しい行動を起こして欲しいとお伝えしたつもりです。

 

出席者の方からは、「地方の病院では、地域移行を進めるため、高齢者の住宅等を自分で持つことが必要になってくる。」「地域の医師も高齢化して閉院も増えてきており、そうした地域を支えるため、訪問診療・訪問看護等のサービスを展開することが求められる。」などと、地域の状況を踏まえた質問・意見もありました。講演の前に、少し、田辺医療圏の山間部を自車で走りましたが、その際に、地元福井県の若狭地方の状況を思い出し、ちょうど出席者から出された質問・意見等と同じことを実感していました。

こうした状況は、遅かれ早かれ、地方では急速に進行することになりますが、今までのような病院経営・病院管理の方法では、地域も病院もダメになることは確実です。どのような着眼点で・・とお伝えしたことが、一つひとつ実現していくことを願うばかりです。

 

夜の番外編では、一人の医師(医長クラス)の方と長時間話すことになりましたが、彼は、「人が少ないのであれば、人の能力をどう上げるしかない」という私の話に納得したものの、同じ診療科の医師のモチベーションをどのように上げていくのか・・「これをやれ! と指示するだけでは、燃え尽きたり、モチベーションが低下したりする」という現実的な悩みを話されました。

私なりのお役所時代や国立病院機構本部での経験も踏まえ、「毎年、新しいことをするという前提で、今頑張る人、翌年以降の挑戦準備をする人等にグループを分けて行けば、組織としては、切れ目なく活性化するのでは?」といった話もしました。役所も会社も病院も、どのように組織をまとめ、また活力を継続するかが、共通の課題であることを再確認する時間ともなりました。

 

さて、今回の訪問をきっかけに、院長をはじめとする病院スタッフの皆さんが、10年後の田辺地域の将来像をどのようにイメージし、どの分野から着手していくか・・私の楽しみも増えました。

残念ながら、今回、2010年に国の名勝に指定された円月島(写真は、病院の管理課長から提供いただきました。)は、拝見できませんでしたが、10年後、もし生きていれば、また、この地域を訪れ、円月島の夕日とともに、新たな成長を遂げた病院が支える田辺地域を見てみたいものです。