実学9:改善計画は報酬に過大に左右されないこと

2017年7月20日

医療介護事業は、施設・事業ごとに定床・定員が決められており、また、それらに配置する職員数と報酬額が決められ、実利用者1人ごとに報酬が支払われます。
したがって、収入不足を改善するために伝統的に取られてきた方法は、当該施設・事業の報酬単価を上げること(上位基準を算定すること)、及び実利用者数を増やすことでした。これは、施設・事業に投入された設備の生産性を上げるという方法に分類されますが、やりようによっては事業本来の意図に逆行することも起きます。

 

まず、この10年間、病院では、在院患者数を増やさずに職員を増やすことで単価の高い報酬を算定し、収入を増やすという方法が採用されました。患者当たりの看護師数配置が多い病棟に対して特に高い報酬単価を新設するという改正に基づき病院が行動したものですが、これは診療報酬政策の失敗として、現在適正化が進められています。
当初、数の多い看護師配置以外に特に要件を設けなかったために、利用率が70%程度の中小病院では、概ね自動的に高い報酬が算定され、大幅に収入が増えることになりました。これを見た大規模病院でも、看護師を追加採用して高い報酬を算定しましたが・・現在では、不必要に増えた看護師の定期昇給等で毎年人件費が億単位で増え、それが病院経営の圧迫要因になっています。また、増えた看護師により患者サービスが改善しているのなら、まだ諦めもつきますが、実際には患者の満足度が上がった様子も感じられません。スタッフルーム内でPCに向かう人ばかり・・人を減らしたくても、一度、慣れた体制を元に戻すことには合意が得られず・・ずるずると今の体制が続くばかりです。
当時、設備からみた生産性は上がったことで飛びついたのでしょうが・・冷静に考えれば看護師1人当たりの報酬額(生産性)は下がっていることに気付き、近い将来に人件費増が過去にない圧迫要因になると容易に予想でき、慎重な判断になったことでしょう。

 

また、延べ在院患者を、患者1人当たりの在院日数を延ばすことで増やそうという動きも増えました。具体的には、病院の病棟で算定する入院料を、在院日数要件が短い急性期タイプのものから、比較的入院期間が長い地域包括ケア病床などに変更して、患者の在院期間を伸ばすことで収入を増やす方法などです。本来、短期間で退院できる人の入院期間を延ばすことで本人に負担を強いることもあり得るとともに、医療費財政にも支出増をもたらす方法です。1病院の経営としては良くても、他に「つけ」が回る方法が長続きすることはありません。こうした方法により短期間で収入改善に成功した病院も実際にはあるようですが、いずれ診療報酬等の基準が変わり、「歪んだ行動」は適正化されることになります。その際、安易な方法を採用した病院は大きな打撃を受け、地道に本来的な改善を積み重ねてきた他の病院に大きな差がつけられることでしょう。

 

これらの例から言えることは、短期的に変わる報酬を過大に重視しないこと。そして、サービス業らしく利用者の満足度を上げつつ、職員1人当たりの生産性を上げることが改善計画の王道だということです。