実学8:契約・調達改善の失敗(2)

2016年12月15日

前回に続き契約・調達改善の失敗と考えられるものを示します。

 

3  担当者の知識・スキルの欠如
    幹部の理解があって契約・調達改善の取り組みが始まっても、担当者の知識・スキルが低いままでは、よい結果が出ないものです。過去の取り組みとは違うことをするのですから、過去の知識・経験は役に立たないのは当然なのですが、その点を幹部が理解せずに、従来の担当者を窓口として進めると・・失敗することになります。
    ある大病院Aで、診療材料の調達価格水準を調べたところ、特に、ある分野で割高であることが判明しました。そこで短期的な結果を出すべく、契約・調達支援会社を紹介して、A病院との間で契約となりましたが、残念ながら、A病院は当該会社には価格情報の提供や事務作業だけを求め、実際の事業者との交渉などは、従来の担当者が窓口となって進めることになりました。病院幹部の考えは不明ですが、自分たちでできると思っていたのだと思います。
    その結果は、平均的には例年並みの削減にとどまり、高いと判断された特定分野も期待された削減幅の半分以下で終わりました。担当者の過去の延長線上の限られた知識・スキルが、その結果の要因と考えられます。
    当該会社は、同じ時期に、他の地域の大病院BにおいてA病院の倍以上の削減効果を出していましたが、そこでは、当該会社が事業者との交渉などの前面に立ち、担当者はその方法を横で見て習うという方法を採用していました。B病院では短期的な経営結果も出て、担当者は過去の延長線上にない新たな知識・スキルを身につけられたということかと思いますが、同じお金をかけるなら、A病院・B病院のどちらの方法が良いでしょうか・・

    新たな取り組みを成功させるには、その担当者の知識・スキルも新たなものにすることが必須という当たり前の話なのですが、割と忘れられる失敗のポイントです。

 

4  一度の成功に安住
    一度、契約・調達改善に成功すると、違う分野に広げるのは当然としても、同じ分野でも、また同じことを繰り返そうとしがちです。

    前回の成功は、実質的に競争が働く環境に変えたからだ・・と考えると、同じ環境のままでは、それに参加する事業者は変わることはありませんので、前回と同じような結果しか出ない・・と考えるのが普通と思うのですが、なぜか一度の成功体験は、冷静な判断を失わせるようです。深く考えることなく、同じことを繰り返すのが人間の性です。
    特に医療業界では、年々、品物の平均市場価格が下がっていきますので、昨年と同じような値引率(対平均市場価格)でも、実際の取引価格は昨年よりは下がるため、一見すると同じ取り組みでも効果が出ているように見えます。こうした発想に陥っている状態は、契約・調達改善の失敗の一例と考えられますが、具体的には公的病院グループで10年以上前に始まった共同調達が、今でも基本形を変えずに続いていることが該当します。
    大事なのは価格そのものではなく、値引率と考えれば・・何年かに一度は、契約方法を見直し、値引率をいかに下げるかと考えることになるでしょう。一度の成功に安住することなく、定期的に枠組みを変える・・これが大事なのだと考えます。