実学6:改善計画は短期的には契約・調達改善から

2016年10月15日

改善計画のきっかけは、足元の経営数字が悪いことが通常です。

したがって、金融機関等の周囲からは、1年程度で結果を出すことが求められます。種々の改善方法がありますが、例えば患者増の切り口では、患者の在院期間を延ばすといったネガティブな方法を採用する以外には速効性はありません。また事業報酬の算定漏れといった改善は、速効性はありますが、通常は金額的に大きなものは期待できません。

 

速効性があって、かつ一定の規模が期待される代表は、契約・調達の見直しです。
一般病院の場合、診療材料費、委託費(業務委託・保守料等)は、医業収入の2割程度を占めています。仮に、これらの費用が平均5%下がれば、利益率は1%上がります。パーセンテージにすれば小さなものですが、公的病院の平均医業収入約50億を前提とすれば約5千万の効果となり、金融機関等が改善の先行きに期待を持てそうな水準になりますし、単なる価格削減であれば現場の不満も出にくいので着手しやすい手段と言えます。
一方、どこでも行う水道光熱費の節約などは、その規模が診療材料費、委託費等の1/10程度のため、金額的な改善効果は期待できませんし、現場にも暗いムードが立ちやすいものです。ただ削減された金額を財源に、節約に頑張った部門が希望する物品を購入するなど、資金使途改善(同じ金額で必要なものをより多く購入)の視点があれば現場も活性化するでしょう。

 

さて、現実にも改善計画が必要となるような事業体の契約・調達は総じて割高であり、上記程度の改善結果は期待できるでしょう。大きな公的病院で契約・調達の見直しの結果、億単位で改善できたという実話は数多くあります。一方、民間は、こうした契約・調達にシビアと一般的には思われていますが・・シビアな主体もある一方で、公的と同じようなものも多いというのが実際ではないかと感じており、少なくとも現状の点検は必要でしょう。

 

次に、こうした効果の期待できる取り組みを阻害するものは何かを考えてみます。
第1は、材料等のアイテム数の多さです。小さな病院でも数千種類のアイテムがありますが、全ての価格を確認して、事業者間で競争させるのは物理的に不可能であり、どうしても機械的な手続を繰り返すだけになります。公的組織では、こうした一品ごとの競争入札を推奨していますが、どう考えても、発注側の手続重視の形式主義を受けて、受注側は取引シェアの維持(暗黙の縄張り意識)という行動をとり、競争の波風が立つことなく少々の価格低下で終わるとしか思えません。大事なのは、事業者が競争せざるを得ない環境を作る~取引額が増えるか、ゼロになるかという選択を迫ることで、はじめて事業者間競争が起き、期待される結果が出るのだと思います。

 

第2は、発注側が過大な内容を受注者に負わしているという点です。
委託契約の過剰な仕様(事務部門まで毎日掃除など)は、どこにでもある話ですが、中には材料の調達先に、契約にない人的サービスの提供を無料で求めていた事例もありました。後者では、当該費用は材料費に上乗せされているのでしょうが、それが適正かどうかもわかりませんし、そもそも当該人的サービスが必要なものかも疑問です。
これら過剰な内容は、かつて経営の良い時代に契約した内容がそのまま継続しているとの経緯や、現場から出た要望を正規では実施できないので業者に頼んだという経緯でしたが、こうした必要十分以上の過剰な内容を整理し、現在メリットを受けている一部の現場職員に本来の姿に戻ることを求める勇気があるかないかが、契約・調達の改善の成否を決めるポイントと言えるでしょう。

 

第3は、契約担当者の意識の問題です。
契約・調達の取り組みを進める際に、「私はきちんと仕事をしている」という契約担当者の意識が邪魔になります。当然、過去の契約・調達は割高という前提で外部と折衝することになるのですが、その際、担当者は「自分が何もしてなかったと言われるのではないか」と心配になるようです。
調達改善の支援会社の営業担当者に聞くと、民間法人に営業に行くと、こうしたネガティブな反応が担当者から帰ってくることが多く、公的のほうがやり易いとのこと。公的は数年で担当者が変わることから過去を否定しやすい一方で、民間では長年同じ担当者であることが多いため過去の否定は自分の否定に繋がると・・警戒感を抱くのでしょう。こうした雰囲気のあるところでは、仮に改善の取り組みが始まっても、担当者の協力が弱く・・場合によっては改善の邪魔になることもあります。人間の意識とは本当に面倒なものです。

 

こうした問題をクリアして、契約・調達改善に着手する際には、すべて同時に結果を出そうとするのではなく、取引額が大きく見直し効果が大きいと期待される分野であって、組織内の反発も少ない分野を特定することが大事です。
その実現に全力を尽くす・・最初の一歩に成功すれば、次の展開に不満も出にくいでしょう。