実学4:組織批判と事業改善

2016年8月15日

ある法人の職員のヒアリングの一環として、月数回のペースで、各事業体の一般職員と夜の意見交換会=飲み会を約1年間続けたことがあります。法人の資金で飲み遊んでいると言われるのも主義に合わないので、原則、私個人の招宴(ご苦労様会)という形式で行いましたが、医療介護現場の人の行動を直接知る得難い経験となりました。

 

まず、事後の事業体との関係を円滑にするために、数名の「正直者」を固定メンバーとして指名したうえで、あとは彼らを幹事役に、定期的な会合をセットすることにしました。原則として、私は聞き役となり、話が弾まない場合には、幹事役が発言を促すように依頼しました。その心は、事業改善を担える人材の有無を私自身が見極めること、及び、職員と幹事役のパイプを強くして、その後の展開を円滑にすることでした。

 

数か月の準備期間をおいて、定期的な夜の意見交換会は始まりましたが、幹事役の努力もあるとは思うものの、こうした会合に出てくる人は、そもそも何か言いたいことがあるようで、いくつかの例外を除けば、あれこれと面白い話を聞くことができました。
もちろん酒の場の話ですので、幹部の言動を快く思わないとの声も出てきます。こうした場合、そんな話もあるのかと覚えておく程度が基本ですが、同じ事業体の複数グループで同様の話が出るような場合など、深刻と思われる場合には、情報源を秘匿して事実確認を行い、後日、幹部に注意を促したこともあります。問題が深刻になる前の予防措置として、効果的だったと思います。

 

また、「○○をしたいと提案をしたのだが、幹部は理解してくれない。」「元々□□をするという趣旨で始まったが、その通りになっていない。」などといった、自分の仕事のやりがいや、組織のありように関する不満・批判も結構ありましたが、こうした不満・批判にも2種類あるようでした。
一つは、酒の場で、こうした不満・批判を話すことで、自分の気持ちを浄化するタイプで、実際に苦労を買ってまで、それをやり遂げたいとまでは考えていないグループ。もう一つは、環境・条件を整えてもらえれば、本気でそれをやりたいと考えているグループですが、後者は、事業改善を進めるエンジンとして大事な存在です。
こうした人を扱いにくい面倒な人と考える人もいるでしょうが、私自身の経験からは、言われたことを淡々と行う人よりは、はっきりと文句は言うけれど自分の信念が明確な人のほうが、事業を良くするには大事な存在と実感しています。自分で考えて行動できる人だからです。

 

医療や介護事業の改善プランの作成は、それほど難しいものではありませんが、最大の課題は、それを実現できる人材が、どの程度、組織内にいるかです。もっと言えば、その人材の質・量にあわせてプラン自体を修正・調整しないと、何ら成果の出ないままに終わることになります。収支等の経営数値は、こうした面を考慮しなくても改善しやすいものですが、サービスの質の面では決定的な要因となります。経営数値は悪くなくても、サービスの質が劣っている事業が、近い将来に、どうなるかは、誰しもわかることです。
ただし、本当に事業改善のエンジンとなるかを事前に見極めるのは難しいものです。私も、大丈夫と思っては何度も失敗していますが、少なくとも「正直者」でない人にお願いすることはありません。