実学3:幹部と職員のヒアリング

2016年7月15日

これまで関わった医療介護事業において、幹部と職員との間で、認識が大きく異なっていることを経験してきました。しかし、それを統一する努力が乏しいことはもとより、認識が違っていること自体も把握していないような状況には、不思議な気がしました。

 

ある組織では、トップが自分に近しい「取り巻き」の意見を聞いていることで、皆の意見を聞いていると自己満足しているようでしたが、どう見ても偏った意見だけが伝わっていました。トップ自身が直接知らない人の評価を取り巻きから聞いて、その人のマイナス評価で固定化している・・しかし、取り巻きの起こした不祥事は内々で処理され、トップに伝えず素知らぬ顔をしているといったことが常態化しているようでしたが、ここまで行くと、役に立つ人ほど、やる気をなくして組織を離れ、組織はやせ細っていくものです。

 

さて、ある組織で、職員ヒアリングを試みたことがありますが、面白い経験となりました。
それは上司部下という関係ではなく、法人本部という立場=各事業体を外部者という立場でヒアリングするという構成をとってのものでしたが、狙いは、各事業体の職員意識を明らかにすること、それを素材として各事業体の人事労務制度を整えること、最終的には事業体管理職の質の向上を促すことでした。

 

まず、どのような意識ギャップが、事業体ごとに幹部と職員の間であるかという仮説づくりを、ヒアリングを実際に行うメンバーで行いました。各担当者は、それぞれの人間関係を活かして、管理職や一般職員との何気ない会話を通じて、自分なりの情報収集と仮説づくりを進めてもらいました。結果的には、この段階の出来の良さが、その後の仕事の質を決めることになりました。
続いて、ある程度の仮説ができた段階で、それを前提としたヒアリング事項を定め、対象となる事業体に対して、ヒアリング事項の説明と対象職員の抽出をお願いしました。そして、実際にヒアリングを開始すると、ヒアリング担当者から、苦労話や面白い話を聞き続けることになりました。

 

初日は、本当のことを話してよいのかどうか職員が迷い、なかなか本音の話が出てこないという話が続きました。そのため、翌日以降は、ヒアリングしたことを個人が特定できるような形で上司に報告することはないことを周知することを含め、ヒアリングの最初に、ヒアリング担当者が職員の信頼を得られるような会話を行うことに傾注したことで、やっと意味のあるヒアリングが増え始めました。近すぎず遠すぎない、ヒアリング担当者と職員との良い距離感と、自分の立場の安全確認がないと、職員ヒアリングはうまく行かないという実感です。

 

その段階を過ぎると、ヒアリングをしているうちに、泣き出す職員がいるという話を聞くことになりました。事前の調査で、「管理職が職員の話を何も聞かない」という苦情が多い事業体での事例でしたので、管理職とのコミュニケーション不足に対して不満の強い職員がいる証左と思われましたが、一方では、ヒアリングが終わる頃には、すっきりとした顔になるということでしたので、「聞く」という行為があるだけでも不満解消になるのではという解決の仮説を見出すことにもなりました。

 

また、中には、このヒアリングは、何を目的にしているのかと探るような発言をする職員がいるという話もありました。きっと管理職から依頼されてのものだろうと想像されましたが、職員ヒアリングを行うだけで管理職に一定のプレッシャーがかかるのだと認識できたことも、その後の組織運営のヒントになったことも間違いありません。

ヒアリング結果は、最終的に事業体別にレポートにして、幹部に配布しましたが、直接的な反応はなかったものの、水面下では種々のインパクトがあったことが聞こえてきました。

 

こうした反応は、組織体質によって大きく違うはずです。幹部や職員を対象としたヒアリングは、組織の問題を見極めて活性化を促す際には、一度は試してみたい手順です。医療でいえば、診断や治療を決める際の問診のようなものかもしれません。
ただ、何を言われても、それを素直に受け止められる普通の組織体質であることが条件です。この業界には、本音を言われて、組織批判と受け止める幹部もいるとのこと・・未だに理解が及ばない不思議な業界です。