2017年8月20日
医療介護の現場では、人材不足と言いながらも、その総数は順調に増えています。
もちろん事業所数も増えていることから、一つひとつの事業所では、確かに人数の不足に悩んでいるところが多いのも事実ですが、それらの事業所内の人の働き方を確認すると、疑問に感じることが多いのが現実です。
例えば、病院では看護師がスタッフステーションでPCに向かってばかりで病室にあまり顔を出さない光景をよく見かけますし、介護施設では介護職の本来の仕事である利用者対応以外の業務に時間をとられているのを見かけます。
以下は、ある介護施設での話です。
小規模の認知症グループホームでは、介護職が食事の用意をして提供する例が多いようですが、この新設の介護施設~ユニットケアの介護老人福祉施設でも、ユニットごとに介護職が食事の一部を調理し、盛り付けて提供、そして食器も洗うという形で、スタートしました。発想としては、同じ法人内の他施設でも同じような対応をしても問題は少なく、その結果、調理師などの人件費が低く押さえられるということだったのでしょう。
新設施設でも目論見通りに事が進めば良かったのですが、調理に不慣れな介護職達は、一連の食事業務に長時間をとられ、本来の利用者対応の時間が削られ、義歯をしないで食事を始めるというお粗末なものから、食事前後で転倒が頻発するといったことが続きました。食事自体も「適時適温」とは言えない状態・・担当介護職による個人差が大きいとのこと。利用者の食事の満足度も低いと予測されています。
施設内部からも、介護職が行う食事提供を止めて、介護業務を行う時間を増やすべきという意見も出たようですが、最終的には、開設後の最初の行政による実地確認によって事故頻発が問題視され、介護職の食事業務を止めるべきとの指導を受けて方針変更となったという顛末です。
結果的には、開設したばかりの不慣れな状態で介護職に他の業務を過大に担わせて、利用者に「しわ寄せ」~サービス低下が起きたということですが、聞く限りでは、介護職の介護力自体もレベル向上が必要な状態とのこと・・単に食事業務を止めただけでは問題解決は難しいのかもしれません。
個人的には、こうした介護職による他の業務実施自体を一律に否定するものではありませんが、介護職本来の利用者対応を安定させ、その後に介護職のできることを増やす~生産性の向上を図るという慎重な手順が必要だったのでしょう。いきなり到達点の形で始めるのは無理がありますし、開設前の準備段階で介護職の食事業務の訓練が、ほぼ行われなかった(他でできているからという理由で)ことも混乱を深めた要因と思われます。
これは極端な例と思いますが、介護職に介護業務以外の事務仕事を任せて負担感が増し、離職やサービス低下に繋がることは、身近な施設でもよくあることです。
人件費を抑えたいという経営的な理由はわかりますが、不足感の強い介護職を他の業務で使って利用者、職員双方に不満を募らせるのでは本末転倒です。
今般、再スタートなる当該施設ですが、まずは利用者の安全・安心~それから利用者の満足度向上を旨に、現実的な体制の再構築、各職員の能力開発、人事労務制度の見直しなど将来に向けた道筋の整備を進めて欲しいものです。それが、事業の安定のための唯一の方法だからです。