2014年6月13日
6月に入り、第1週は北海道、第2週は四国を訪問。医療経営者と語る時間を得ることができました。
北海道は、医療法人北海道家庭医療学センター(写真)への訪問が目的です。
共通の知人を介して、プライマリ・ケア連合学会の幹部の皆さんを知ることになりましたが、昨年は、学会長の経営する病院に訪問し、今回は、副会長が理事長を務める当該センターです。現在、検討されている総合診療専門医のモデルとなる場として、個人的に強い興味を持っての訪問でした。
当該法人は、北海道内に6か所の拠点を持ち、各拠点には3人の総合診療医が配置されているとの由。また、近畿にも1か所、新たに拠点を設けるなど着実な展開を図っています。
理事長から直接、法人の歴史、方針などを聞き、都市部、農村部の代表的な各現場(札幌、更別)の活動状況を見せていただきましたが、法人経営の中心は「教育」であり、診療所経営の眼目は「信頼」と、私なりに理解しました。一連の行程で、特に印象に残った話は、次の3つでした。
「総合診療医は、決して在宅医療のみを志向するものではなく、逆に、在宅医療(訪問)のみを行う診療形態は理解できない。総合診療医=在宅、農村といった固定イメージを解消し、総合診療医が本来の機能を発揮できる働く場所を作って行くことが大事と考えている。」
「総合診療医は、農村部では、小児等を診てもらえることに非常に安心感がある。また、3人の診療体制があることから、医師に無理がかからず安定しており、仮に、医師1人が辞めたとしても、医療センターの人事異動として次の体制づくりも迅速なので、村としては安心できる。」
「後期臨床研修だけでは新人医師の不安が強く、研修終了後、別の道を選択する人も多かったことから、不安の根源をリサーチし、後期臨床研修修了者を対象としたシニア研修(経営面の教育も含む)を導入したところ定着率が上がった。」
これらから、地域社会や若手医師と法人とのコミュニケーションを深めつつ、全体がうまく回るような仕組みを考える法人の姿勢が感じられましたが、こうした前向きな姿勢が続けば、全国に総合診療医を供給する「民間医局」となることも可能だろうと実感しました。
この北海道での感触は、次の四国への訪問で裏打ちされることになりました。
四国は、昨年2つの病院を統合して生まれた国立病院機構四国こどもとおとなの医療センターへの訪問が目的です。小児専門病院と一般病院の統合という珍しいパターンであり、2つの組織の実質的な統合を、どのように図っていくのか・・個人的に興味があったからです。
昔なじみの院長から、統合にまつわる種々の話を聞きましたが、最も印象に残ったのは、やはり医師の話です。
「医師は100名以上になったが、今の専門医制の下では医師は何人になっても足りない。一人の医師が担当する分野が非常に狭くなり、例えば消化器内科の医師を複数名集めても、それぞれの専門分野が臓器別に分かれており、十分な対応ができない。」
「若手の専門医の中は、『私は、この分野はできない』と平気で断るような者も増えており、複数の疾患を抱える一人の患者に対して責任を持って対応するといった意識が薄らいでいる可能性がある。個人の感覚としては、後期臨床研修を民間病院で受けて、過保護な環境に置かれた結果、そうした意識の低下を助長しているように感じる。」
これらの話は、北海道での見聞と表裏一体であり、「細切れ教育」とも言える、これまでの医師教育の限界を示し、今後の医師教育、医師採用というものを考えさせるものでした。
北海道行と四国行の間に、国立病院機構当初の元役員・元部長の集まりがありましたが、やはり医師教育の話になりました。前理事長から、「総合診療教育を旨とする新医学部の創設」の構想を聞き、非常に興味深い話と思いつつ、北海道での見聞を皆さんに伝えました。また国立病院機構も地方の病院で、総合診療専門医を数百人単位の採用枠を作ると、新しい医療提供モデルができるのではないかとも提案しました。こうした将来につながる議論は、一病院・一法人の経営改善と違って、自分自身の遣り甲斐は何かと・・思い出させてくれます。
今回の北海道と四国への訪問は、私にとって、今の仕事を選んだときの初心を思い出させてくれるよい機会でした。
今に安住せず、制度に依存せず、人材を育てて未来が求めるものの実現を目指す、公共心の高い経営者との語らいは、今後も続けたいものです。