行動観察35:前例踏襲か原点回帰か

2022年10月15日

「前提踏襲」~以前と同じやり方などの前例を参考にするとの意で、日本型組織の欠点~特にダメな公務員の行動を揶揄するときに使われる言葉です。「前提踏襲」には、同じことが繰り返される定型的な事象については、特に深く考えなくても大きな失敗をしない、これに要する時間を短縮して他の重要な問題に振り向けられるなどの効果もあり、定型的仕事の多い公務員組織では、業務の半分は前例踏襲で済むと言えます。

しかし、初めての案件や、環境が変わった結果 似て非なる問題となっている案件などで、前例がないので難しい、前例通りで十分といった判断をすると大けがをすることになります。

 

さて、数多くの反対派の皆さんを前に医療観察法病棟建設の説明会を行った地に20年ぶりに行ってきました。

昔の同僚が、その病院の総務部長に着任したことを知り、人生の棚卸として見学を申し込み、実現した病棟見学です。その広大な敷地を部長と歩きながら、当時のことを思い出しました。長年の懸案とされていた制度が、新法として成立し、その施行の責任者になった時の記憶です。

例えれば、高層ビルの基本構想があるだけで、実質、ビル全体の運用を考え、設計図を書き、資金調達して、工事を完成させる・・それも1~2年でという酷い話ですが、何とか数か月で他人様に説明できる程度に形を整えて、全国初の病棟建設の地となった現地の行政・議会説明を経て、寒い春のお彼岸の日に開いた説明会の模様を思い出しました。

 

息切れ寸前で病棟にたどり着いて安全チェック~空港では反応しない金属の少ないベルトでも高らかに音がするくらいの厳重さです。

病棟師長さんに案内されての見学ですが、部長も同行したせいか、開設後18年の病棟の老朽化した部分を強調した説明など、国立系の病院はどこでも同じと、昔を思い出して苦笑い。ただし、雨漏りを受けるバケツがあったり、設備の老朽化で中庭の使用が制限されたりと、設備的には部分対応ではなく、全体的な更新が必要な時期と思われました。20年もたてば、当初の建設費の2割くらいは資金を投入して改修しないと、資産価値は急速に下がるもの・・先送りの姿勢はかえって出費を増大させるものです。

また、当初の制度設計時に想定した患者層(主病名・男女比など)も変わっており、病棟運用の変更のための構造の見直しも必要と思いましたが、体育館の雨漏りの修理着手にも長期間かかるといった状態・・きっと病棟の設置・運営を要請しているのは自分ということを、今の厚労省は忘れているのだろう~国の予算がない、病院で何とかしてとか言って門前払い~もしかすると、こうした状況も知らないのかと思い聞いてみると、担当課の人が見学に来たとの記憶はない・・監査には来ましたが・・との由。

 

病棟内一巡後、当初の想定より、なぜ在院期間が2倍になっているのかと、しつこく聞いてみました。

当時、新法の国会審議でも、財務省との水面下の予算調整でも、概ね在院期間は18か月、総病床数は400床程度~必要総額は200億程度という前提でしたが、いずれも2倍になっているのでしょう。

全国平均では、病棟運用開始後から現在までの期間を3つに区分すると、当初は概ね18か月程度、病床が増えた中間期には倍近くになり、最近5年では更に伸びたとの要因について意見交換~さぞかし師長は、私を変な人と思ったことでしょう。担当課も気にしないことを根掘り葉掘り聞くのですから(笑)

 

見解の相違もありましたが、双方の考えが一致した点もありました。

① 病床数が増えたこともあり、当初想定していた患者層とは違う人が数多く入ってきており、回復期の期間が延びている。ほとんどが、原因となった加害行為に関して裁判を受けない検察官の不起訴処分~審判は経てるものの、責任能力があり、本来、罪を問われるべき人が多く含まれている可能性(主病名から通常は心神喪失とは言えない)は否定できない。(政府で検証が必要な事項)

② 社会復帰面では地域での対応が大きく異なる。比較的、順調に外泊から退院が進む地域と、極めて防御的に反応し、できるだけ長期の病院入院をというところまである。また、地域の調整を行う保護観察所の調整官の対応も地域差・個人差が大きいと感じる。(政府内で調整が必要な事項)

③ 当該病院は全国の最終的な受け皿となっているため、北海道・大阪等の遠距離の対象者が多いが、社会復帰の際の外泊など、飛行機・列車・車両などの手配を病棟スタッフが行うことをはじめとして、極めて負担が重い。スタッフの負担を考えると、どうしても社会復帰の外泊等を多くして早期退院を促すのは難しくなる。(外泊地の距離等に応じた政府のサポートが必要な事項)

 

実は、これらは当初の制度設計の段階で問題として意識した事項ですが、当時病棟が世の中に一つもない中では、検討も調整も予算要求もできなかったというのが本当のところ・・例えば、外泊の際の負担については、新入院の際に専門業者が患者を移送してくる(厚労省職員が同行)のと同じように、最初等の外泊は専門業者が移動を手配・実施(スタッフが同行)というのも考えましたが、実例がないので要求できず・・と言い訳するしかありませんでした。

間もなく最初の病棟開設後20年となります。学会等で、こうした当初制度設計と違っている点、これに対応した必要な措置事項を明確にして役所に突きつけ、これを受けた政府は、その問題解決に取り組む時期に来ているのでしょう。このままでは、本来の制度目的とは異なり、単に対象者を社会から長期隔離するだけの施設になりかねません。

 

過去の前例を無自覚に踏襲するのではなく、整理し、検証し、原点回帰で、新たに制度を作るくらいの気持ちを政府に期待します。そうは言っても、無自覚な前例踏襲がお好きな役所ですので、1回くらい騒いでも何も起きません。それでも3回続ければ、何とか動き出すというのが昔の経験です。

総務部長には、こうした問題の存在を明らかにして、行政課題の俎上に載せるのが「君の仕事」と無責任にお伝えして、現地を去りました。

あとは部長に期待・・ 20年後にも社会の評価に耐えられる病棟であって欲しいものです。