行動観察32:意馬心猿か鼻先思案か

2022年7月15日

「意馬心猿」~欲望に心を乱されて落ち着かない様子、または、そのような欲望を自制しがたい状態を表す四字熟語。乱れて落ち着かない気持ちを、走り回る馬や騒ぎ立てる猿にたとえた仏教の言葉です。

 

あれやこれやと伝えられた4千万を超える給付金の誤送金騒動・・・誤送金をした側は、資金回収も終わり一段落でしょうが、誤入金を受けた側は犯罪の嫌疑で起訴されており、これからも厳しい状況が続くことでしょう。
私の奥方は、「自分の口座に4千万もの知らない数字が積みあがっていたら、怖くて触れない。」という考えでしたが、幼いころから経済的に苦しい時が続き、毎月の生活費も十分に確保できない状態だったとの報道を聞き、私の幼い頃を思い出し、私は奥方とは違うように考えました。

 

私の幼い頃は、両親共働きでも生活は厳しく、子供が欲しがる流行りのおもちゃなどは買ってもらえませんでした。お小遣いにも困り、時には母親の財布から100年玉を盗み出し、隠れてお菓子を買ったときもあります。親は気づいていたのかもしれませんが、この事で怒られることはありませんでした。
その後、高校を卒業~上京して4畳半の部屋、トイレ・キッチン共用の下宿で一人暮らしを始めましたが、同時期に昨年暮れに亡くなった姉も東京の大学に・・共働きの両親の給与は2人の子供の仕送りに全部消え、父親の賞与とわずかな貯蓄を取り崩しての生活だったと、あとで聞きました。

 

仮に、こうした時期に、私の口座に見たことのない多額の数字が積み重なっていたら、きっと次のようになっただろうと想像しました。
〇1週間の生活費として〇万円を口座から出そうとして、4千万もの知らない数字があることに気づく~試しにと、いつもの何倍か出してみると、問題なく出てくる。
〇それを原資に、小さな贅沢をしてみるが・・あっという間になくなる。口座には多額の数字がまだあるが、誰も何も言ってこない。
〇これ以上使うと、返してくれと言われても返せなくなるが・・でも、贅沢な経験は捨てられない・・と良心と誘惑の間で揺れ、落ち着かなる。
〇結局は、欲望を自制しがたくなり資金を引き出し・・これを何回か繰り返すうちに、良心が薄れて、数字がゼロになるまで使い続ける。

 

特に、今回は、実際に現金を使ったのではなく、ネット上で、単なる数字を動かすだけだったでしょうから、数字がゼロになるのは、あっという間だったのではないでしょうか。きっと、「意馬心猿」の状態~いろいろ思い悩んだのでしょうが、誘惑に負けて、ネット上で数字を動かすという一線を越えたときに、もう止めるものはなかった・・あくまで想像ですが、私は、起訴された若者に同情的です。
誤送金は、間違った行為を強く引き出す誘因・・「意馬心猿」を引き出した罪深い間違いだったと。

 

一方、送金に関わった行政職員も若い世代の人のようですが、きっと、周囲から攻められるなど、大変な時期に過ごしたに違いありません。なぜ、そうしたことが起きるのかという業務手順等に着目した報道が多かったようですが、私は、この問題は、人の特性・特徴を見ない安易な人事異動に起因しているのではないかと考えています。
お役所は、定期人事異動があり、その時の「題目」を唱えて、機械的に人事する傾向があります。鼻先思案の人事と言えば、よいでしょうか。
私も、過去の役所人事で、驚くような、苦笑いするような経験が何度かありましたが、人には向き不向きがあるものです。こうした面を無視して人事をすると、酷いことが起きる~特に、出納といった業務を担う人は、特に慎重で「石橋を叩いても渡らない」といった人を配置すべきですが、もし、こうした人なら、不慣れな仕事であっても、慎重であることの良さが出て、今回のエラーは避けられたでしょう。

 

2人の若者が期せずして本件の主人公になりましたが、世間は大騒ぎだったものの、誤送金の資金は回収されたのですから、2人には社会的に寛大な判断・対応がなされ、今回のことを糧にして、社会を担う良い人材に成長していって欲しいものです。
一方では、人事を考える立場の人は、今回のことから学ぶべきものが多いと思うのは、私だけではないでしょう。