2022年6月15日
「呉下阿蒙」~中国三国時代の武将の一人 呂蒙。武勇一点張りのため、孫権から「武勇ばかりではなく学問も修めよ」と意見され、その意に応えるために猛勉強を開始・・しばらくしてから、呉の参謀の魯粛と対談した時に、呂蒙が高い見識と知識を身に着けたことに驚いた魯粛が「武略のみの呉の蒙君ではなくなった」と言ったとの「呉志 呂蒙伝」に由来する四字熟語です。
「呉下阿蒙に非ず」と使われて、成長を賞する意味となります。
さて、今回、刑事事件の被告人側の証人として、法廷で証言することになりました。N大の背任事件で、元理事とともに起訴された医療分野の調達改善のコンサル会社の社長~2015年の当該会社発足時から、私の業務の一環として監査役を務めてきた立場での証言です。
証言は、医療機器・材料の取引の実態、この実態に対する行政側の捉え方など、この事件を考える上での基礎知識的なことから始まり、「放射線機器の調達・電子カルテの延命という2つの件は、知人を介して知った当時の病院長が私に相談したことが発端であること」、「その訴えを聞いて私は『医療ミスや診療停止につながる重大なリスクだが、医学部はじめ大学側は理解してない危ない状態』と思ったこと」、「そのため当時N大側と直接契約関係(大学側の依頼で医療機器等の見積りの作成・点検を行うなどの業務を受託等)になったと聞いていた当該会社の社長に事実確認等を依頼したこと」、「その結果、会社は『病院のリスク解消のためなら』と良心的に動き出したこと」等を、弁護人・検察官・裁判官の質問に対して回答しました。
もちろん、会社の一員として、世間を騒がせたことはお詫びしました。
証言の最後に、当該会社の監査役として、会社としての再発防止を整えることを約束しましたが、法廷で検察官等が問題としていると感じる点と、自分が問題だなと思う点が違っていると思い・・正直、難しい宿題を負ったと自覚しました。
まず、難しい最初の点は、今回の個別の事象について有罪無罪を考える立場と、種々の相手との関係・取引の実態全体を念頭に考える立場の違いです。
報道から受ける印象は、検察の発表等を受け「○○の悪事に積極的に加担した」というものでしょうが、私の理解は「○○の悪事に意図せず利用された」というものです。
もちろん本人から聞いたことを前提した印象ですが、社長個人の力量により成果の出る小さい会社ということもあって、記録をこまめにとっていなかった~ほとんどは社長の頭の中という状況ですので限界はあります。この立脚点が正しいかは、最終的に判決で決まります。
次に、「意図せず利用された」という前提にたって、事件に巻き込まれないために、また仮に巻き込まれても正当性を理解してもらうためにと考えると、「口約束はしない(原則書面で)」「仕事の進捗の節目で相手と内容を確認する」「社内の判断基準等を明確に」「相手との話は極力複数で」といった点は、発生予防と言う意味での必要な備えとして、割と簡単に理解できます。
これらは、当社が公的な大病院から不払いを受けたという他のトラブル(現在裁判中)の相談を受けたときにも指摘した事項ですし、今回相談した、新聞記者の経歴を持つ社会保険労務士の知人からも、中小企業の多くで生じる不払いトラブルや事件にも共通すると言われました。
しかし、今回の件は、発注者の要請に応えた~それも元理事の不正の目的を知らずに・・という社長の認識の下で、実際に、どのように考えたら防止できたかという難しい問題です。
現時点では、正解にたどり着いたわけではありませんが、裁判官が最後に社長に対して発した「プロとして、なぜ大学側の考えを確認しなかったのですか」という問いをヒントに考えています。
具体的には、「プロとして行った仕事の結果については説明責任がある」という理解で、「この責任は発注者の要請に応えるという取引の責任と両立する必要がある」と考えるということです。仮に、この2つの責任の両立を考えた社内ルールがあり、これを実践していれば、捜査当局から「胡散臭い会社」と誤解されることはなかったでしょうし、取引の相手方のガバナンスが普通なら、事件は未然に防げたかもしれません。あくまで現時点での推測ですが・・
今回は、公的な大病院から不払いを受けたトラブルに続く、2回目の会社の大きな危機です。
この状況において、会社として「呉下阿蒙に非ず」と言われて一段の成長のきっかけとなるのか、それとも「何度も前と同じ轍を踏む」ダメ会社と言われるのか・・・私が要因分析に基づき作成する社内ルール案の出来不出来と、社長が行う社内ルールを遵守する体制づくり次第です。
医療機関相手の大手コンサル会社に聞くと、過去の先人たちのトラブルを参考に社内ルールを整えても、必ず毎年数件は医療機関との間で、不払い・契約トラブルがあるとのこと。
それくらい医療機関との仕事は難しい分野ですので、単なる綺麗ごとに終わらない実践的な社内ルール(行動規範)となればと・・思案中です。