行動観察25:面壁九年か再三再四か

2019年10月15日

面壁九年~1つのことを長年継続してやり続けること、又は、やり遂げようと努力すること。元々は、中国北宋代に編纂された「景徳伝灯録」にある言葉であり、「達磨大師が少林寺に籠り、9年間壁に向かって座禅を組んで悟りを開いた」という故事に由来する四字熟語です。

 

さて、厚労省若手チームが8月末にまとめた組織改革のための緊急提言に関し、数人の知人から、「あれをどう思うか」と意見を聞かれました。私は気がつきませんでしたが、メディアなどで取り上げられたらしく、これを目にした知人からの質問でした。
私は内容を知らなかったので・・知人には「内容は知らないが、見てどう思ったのか?」と逆に尋ねたところ、「あの程度のことが、自力でできないようでは社会保障の将来が本当に心配だ」という他は、「具体案の前に、もっと業務内容の分析が必要~アウトソーシングの前に業務自体を止めるには・・」「見ようによっては、あれが欲しい、これが欲しいと言っているだけ・・」と否定的な回答ばかりでした。

 

知人が否定的な印象を持つ報告が、どのようなものかと一応拝見しましたが、第一印象は、「そう言えば、以前も同じようなことがあった・・」でした。

厚労省のHPを検索すると、平成22年7月の記事に、「省内公募による若手プロジェクトチームを発足させ、6つのチームが業務改善、コスト削減、サービス改善等のさまざまな提言を取りまとめ、省内幹部への報告会が開催された。」というものを見つけ、9年前の報告書の内容を確認しました。

9年の時間をおいて若手がまとめた、この2つの報告の内容は、(9年前のコスト削減の提案を受けて実施されたであろう、いくつかの対応が、今回、否定的に扱われている点を除けば、)驚くほど似ています。報告の前提となった実態が悪くなることはあっても、良くなることはなかったという証左でしょうか。

 

今回の報告を別の切り口で整理すると、次の4つに区分されると思いますが、ア・イの事項数も結構多く、ウ・エについては省としての財源捻出等の方法も不明確なので、知人達は「大組織の一員として生きる者に必要な提案・配慮が欠けている」=「外部に言う前にサッサとやれ。」「あれがない・これが欲しいと言っているだけ。」「そもそも外部に公表する内容か・・」と感じてネガティブに捉えたのでしょう。
ア 今時こんなこと(出勤簿に押印、都道府県通知が紙で押印、会議資料等が紙など)・・
イ 組織内の工夫・決定で変えられること(国会答弁などの通常業務の簡素化、定員配置の変更など)
ウ 費用増加=予算増を伴うこと(電話応対や作業のアウトソーシング、職場環境改善など)
エ 外部の各制度の変更等が必要なこと(国会運営の変更、厚労省の定員増など)

 

しかし、本当の問題は、9年前に同じような報告がありながら、9年経っても同じ内容が報告されるという、組織中枢の機能不全~これは私が厚生省に入った30年前から同じか~が長期継続しているという点でしょう。

幹部が1人で頑張っても無理なのは当然ですが、複数の幹部が、まさしく「面壁九年」で継続していれば、今回の報告も少しは変わったものになったに違いありません。

 

今後、幹部レベルに検討は移るとのことですが、まずは、内部で人を動かせる余力を、業務手順の大幅な変更により自前で確保すること~何かをするには、人も資金も、まずは自分で捻出が社会通念~からでしょうか。

ただ、議員対応の業務・技能等が重視されてきた部局長・課室長に、いきなり組織マネジメントを求めても無理なのは当然です。外部マネジメントと内部マネジメントの責任者を区分し、今回の報告に関わった世代に内部マネジメントを実質的に委ねるなどの息の長い取り組みを進めることで、また10年後に同じ報告が出る~再三再四と言われないようになる気がします。

 

私と同世代の厚労省幹部の皆さんは、内憂外患の気分でしょうが、表面に出ている現象にとらわれず、真因に向き合った実質的な一歩をどう踏み出すかを考えて欲しいものです。
今回は、知人からの質問にHPで回答しました~再三再四 聞かれないように・・