行動観察19:隠居方言か隠忍自重か

2019年3月15日

隠居方言~世間から離れて身の潔白を保った上で、自由な言論を行うという「論語」に由来する四字熟語。「放言」というと、今では、「言いたい放題に言うこと。」「無責任な発言をすること。」というネガティブな意味で使われることが多いようですが、原典では、「正義の道に適っている発言」という意味で使われています。

 

さて、最近、国家公務員の言動が国会で指弾されたり、マスコミで非難の対象になることを、よくみかけます。今月は、参議院予算委員会の場で、内閣法制局長官が、国会の行政監視機能に関する答弁の際に、「このような場で声を荒らげて発言することまで含むとは考えていない」と付言したことが、公務員の政治的発言と指弾され、謝罪のうえ発言撤回・・野党の辞任要求、参議院予算委員長からの厳重注意につながるという一幕がありました。

 

たまたま、当該委員会の模様をTVで見ていましたが、その発言が出る前の質問者の言動は目に余るものでした。質問者の発言は要領得ず・・時間が無為に過ぎ、答弁者の回答が自分の意に沿わないと、勝手に自分の都合のよい結論を話始め・・相手を威嚇する感じも漂うなど、正直、自分の子供には見せたくないような状態でした。主な原因は質問者の経験不足と準備不足か・・誰も自分の思う通りに発言する訳はないのですから、そこを切り崩すには、発言ではなく、事実の提示が必要なのは当然です。
こんな表面的な追及だから、政治に関心を持てない若手世代が増えるのだろうな・・と思っている時に、事前の通告のない形で質問がなされ、長官は型通りの答弁の後に、問題とされた発言をしました。私も、さすがに「おや・・公務員らしくない発言だ」と思いましたが、その前の酷いやりとりがあったので、言っていることは間違っていないと思う一方で、どういう展開になるか注目しました。

 

結果は、報道されている通り、公務員としての職責と立場を逸脱したものとされましたが・・個人的には、見るに耐えない国会のやりとりを憂いた長官の本音と思われ、直接、本人のことは知りませんが、真っ当な発言として受け止めました。もちろん、長官は、自分の感情を押し殺して、隠忍自重で型通りの発言をすべきことは知っていたのでしょう。それでも・・という所に人間味が感じられたのです。

報道は、首相を擁護するための長官発言としていますが、本当のところは本人しかわかりません。残念ながら、国家公務員は、何か言うと今回のように一斉に集中砲火を浴びますので、2度と発言することはないでしょう。しかし、一方では、公務員は本音を話さない、隠し事ばかりと非難されることも多く、踏んだり蹴ったりの存在・・

こうしたことが続けば、「間違っていることは間違っている」と直言する者はいなくなり、隠忍自重が当たり前の人間味の感じられない公務員ばかりになりそうです。それが本当に、世の中のためかは、一時の報道に流されることなく、よく考えるべきでしょう。

 

問題のレベルは違いますが・・
旅先で、ベンチの上に土足で立って滝の写真を撮る中年夫婦を見かけ、少々、むっとすることがありました。近くで、高齢の女性が座ろうか躊躇している様子もあり、中年夫婦を背にして「人が座るベンチに土足で登るなんて驚くね」と大きな声で独り言。これが聞こえたらしい中年女性は、ベンチから降りて立っていた場所をハンカチで拭う様子が・・これくらいの隠居方言なら、笑って許されるのでしょう。