行動観察14:事業承継か杓子果報か

2017年9月20日

事業承継~事業経営について経営者が後継者に引き継ぐこと。

事業承継は、「経営権の承継」と「資産の承継」の2つから構成されますが、一般的には、税金対策の面から後者のみが強調されがちです。しかし、事業の存続という本来の面からは、経営権=事業に関する重要な判断、役職員に対する人事方針、取引先からの信用など、元の経営者が長年をかけて作り上げてきたものが重要であり、後継者が単に組織の代表になったからといって簡単に引き継げるものでないことは誰しもわかることです。

 

我が国の医療提供の主力である医療法人のほとんどは、出資持分(会社で言えば株式)を理事長一族が保有するオーナー制です。創業時以降の多くの苦労を重ねて、現在に至るのですが、事業承継の段階で見聞することは、なかなか興味深いものです。
医療事業のトップは医師であることが通例ですが、その子供のほとんどは医師になっています。将来の事業承継を考えて、医師の道に進ませたのでしょう。しかし、医師としての実力向上のためには、自院にいるだけでは実現しません。大学附属病院や医局から派遣される公的病院などでの経験を経ることになるのですが、この経過の中で、事業承継を躊躇するようになる人が多いように感じます。

 

医師は本来的には「個人稼業」と思うのですが、大きな組織の一員として、サラリーマン的に働いていると、経営者として求められる億単位の債務保証額、数多くの役職員の人事労務問題、事業に関する責任の重い判断といった「経営者の重圧」を担うことが嫌になるのでしょう。さらに、医療事故や職員不祥事などで謝罪を求められる他院の院長の姿を見ると、マイナスイメージが高まるのかもしれません。
「経営権の承継」を荷が重いと感じる真面目な人と言えますが、もっと早い段階で「経営者としての学び」の機会があれば、変わったのかもしれません。しかし、こうした重圧を乗り越えて、経営責任を果たすと決めた後継者は、きっとよい仕事をされるのでしょう。

 

しかし、中には「経営者の重圧」を感じることなく、後継者におさまる人もいます。親の作った「資産」の承継という点に関心があるのかもしれません・・理事長になって最初にしたことは、私用の高級外車を病院経費で購入したという人もいました。杓子果報~立派な創業者の子供に生まれた幸運を謳歌するのも一つの生き方ですが、その受け継いだ事業がどうなっていくのか・・心配なことではあります。

 

私自身は、事業における世襲を否定するものではありません。創業者の家族・親族のほうが、「創業の理念」の承継がしやすく、より良い事業継続の基礎となるからです。しかし、先代が残すのは良いものだけではなく、負の遺産もあります。これを改善・解消することは、先代を否定することと考える人も多く、実際には苦難の道が続くでしょう。

これに挫けることなく、次世代の後継者には、より良い経営者になって欲しいものです。