2016年10月15日
誠心誠意~うそいつわりなく、真心をもって事に当たることを意味する四字熟語。現在では、「○○の発展に誠心誠意努力いたす覚悟でございます。」などと、役職就任時のあいさつによく使われる用語となっています。しかし、こうして挨拶などで誠心誠意を強調されると、かえって胡散臭く感じるのは不思議なものです。
さて、これまでの30年の職業生活を経ましたが、人と接するときに乱暴な態度の人と出会ったのは限られた数です。日本の社会では、静かな物言いで接するというトレーニングを自ずと求められるからでしょうが、それが本心なのか外面を装うものなのかは、なかなかわからないものです。
かつての先輩・同僚の中にも、議員レク中は丁寧ですが、内輪の酒席の場では「こんなのやってられるか」と愚痴を言う人は結構いました。大人になれば多かれ少なかれ表と裏を使い分けるものということでしょうが、こうしたわかりやすい反応を見せるほうが、人間味のある人と感じられるものです。
しかし、上司にあたる人に丁寧なことはもちろんですが、後輩や部下にあたる人に対しても静かな物言いで接し、内輪の酒席の場でも否定的な見解を言わないような人も稀にはいました。誠心誠意か口蜜腹剣か・・口ではうまいことを言うが心の中は悪意を抱いている・・は、私のようなガサツな者には、時間をかけないとわかりませんでした。
私のお役所の10名程度の同期の中にも、後輩や部下にあたる人に対しても静かな物言いで接し続けた人がいました。彼は大学時代に時間をかけたので、同期と言っても年長者・・普通なら同期に対しても先輩口調になるものですが、最初から敬語を使う人格者でした。
彼が最初に配属された局では、法令改正の内容を官報に掲載するための原稿を届ける際に、他の部署の内容審査を受けたものを届けるところ、審査前のものを提出・・原稿出し誤りという珍事を引き起こしました。これは官報発行前のチェックで見つかり事なきを得ましたが、本人に事情を聴くと「いや~」と言うだけ。同期の手前、言い訳の一つも言いたくなるものですが・・。
40歳前には、それぞれ局の調整窓口として、国会質問の割り振りや局にまたがる仕事の仕分けの調整をしていましたが、彼との間では不快な思いをしたことはありません。多くは、自分の局の利害に拘り、いらぬ議論や時間をかけたり隠し事をしたりするものですが、そうした素振りもありませんでした。私が役所を出た後も、部局の筆頭課の課長となるなど順調に昇格していましたが、私のことを気遣い、定期的に酒席の場を設けて私の愚痴なども聞いてくれていました、
その彼から、この夏に退職するとの連絡を受け驚きました。もうしばらくは、霞が関界隈と思っていたからです。
政治家や業界関係者などと難しい調整を求められるため、その場凌ぎの口蜜腹剣に陥りがちな世界では、彼のような生き方をするのは確かに大変でしょうが、それでも見てみたかったというのが正直なところです。
今月から、地方大学での学問の世界が始まるとのこと。まじめさが災いして、きっとスタートは大変でしょうが、それこそ誠心誠意の努力でよき教育者になることは間違いないでしょう。
社会のために誠心誠意働く人を数多く育ててください。期待してます。