行動観察5:万夫不当か傍若無人か

2016年9月15日

万夫不当~数多くの人が立ち向かってもかなわないくらい強いことを意味する四字熟語。

これを現代の話として考えれば、業界の常識にとらわれず、次々と新しいアイデアを実現していく人ということでしょうか。

 

かつて厚生労働省に所属していたときに、ある福祉業界の事業経営者と知り合うことがありました。その時は、その業界の古びた常識に反して、障碍者の就労を前面に出した取り組みを進める馬力のある人と感じていました。ある意味、今後の若年の障碍者支援のモデルの一つとなるのではないかと考えていたことは間違いありません。

 

その後、私が、今の立場となって数年して、その人に再開し、当該法人の経営改善に関わることとなりました。当初は人材育成という観点からの関与でしたので、年間の研修計画をたて、各回のテーマごとに講演~グループワーク~発表~評価という一連の活動を動かし始めました。そのうちに、事業経営として当然のことを理解できる人と、そうでない人の区別がはっきりし、事業の健全化のためには、当たり前のことを当たり前と考える人を責任者に登用することが必要という見解で一致し組織の見直しとなりました。しかし、登用された人たちは、事業の健全化のために当たり前のことを当たり前にするために、いろいろとアイデアを出すのですが、その多くが「万夫不当の経営者」に跳ね返されることが繰り返されました。

 

その頃には、当該法人の収支改善にも深入りを始めていた頃でしたので、各事業の生産性が著しく低いこと、その原因として各事業の商品・サービスの質が良くないこと、それにも関わらず過大投資が繰り返され債務残高が過大なことなどが、わかってきました。
内部の人にヒアリングすると、「○○さんが、やると言ったら止められない。」「特に設備投資に関することは非常に積極的である。」といった声が共通のもので、中には「○○さんの関連企業に設備投資の発注を繰り返している」という話もありました。どうも事業改善のネックは、食品を主たる事業としながら、建築関係の仕事の経験しかない当該経営者の判断と言動・・と考えざるを得ない感じとなりました。

 

ちょうどその時に、「大きくなりすぎた法人の健全化のために分社化をしたい」という話が、当該経営者からありました。

それも面白いと思い引き受けることにしましたが、時間経過とともに雲行きがおかしくなってきました。最初は、前向きな話だったのですが、「分社化させる事業分野の責任者は、出入りの業者からリベートを受けているらしい」といった真偽不明な話を私に始めました。その指摘が仮に本当なら、そうしたネガティブな人物を法人から切り離すのが主たる目的であり、その引受先が私となります。相手が迷惑千万な話と思うだろうということはお構いなしに、自分の都合だけの話をつづけました。
最終的には、その渦中の人は、そうしたマイナスの話があることも知らされずに、経営者から一方的に事実上の首の宣言を受け、起業も断念することとなりました。別の人が選定され、分社化の話は実現しましたが、その人たちに関しても、いろいろとネガティブな話を私に聞かせました。どう見ても、そうは思えないので、聞き流していましたが・・・。

 

あれから数年の時間が経過しました。分社化した人たちは当時とは全く違う安定した経営体質を実現し、当時のネガティブな噂話を払拭した一方で、当該経営者は、将来性があると思われた事業を当該法人から切り離して大型設備投資のうえ事業化を進め、過大債務で設備投資能力のない法人の経営からは定年を理由に手を引きました。
外から見ただけでは万夫不当の人物でも、よくよく内からの目で見て考えないといけないと気づかされた一件です。

 

当の法人は、当時主力として登用された人たちのほとんどが、当該経営者との軋轢もあって法人を離れましたが、その多くは新たな先で良い仕事をしていると聞きます。それが本件の唯一の救いです。