Episode145「人事課長に言われた一言 君と一緒にやってく自信がない」

2016年1月8日

厚生省(当時)の採用は、実質的に課長補佐以下の判断で行われていました。
入省後、数回、採用担当をしたときにわかりましたが、厚生省では、この補佐以下の採用は、概ね2年ごとに採用方針が変わっていたようです。ある年に、「自分と同じものを求める」安定した採用チームが、いわゆる能吏と言われるタイプを集めると、それでは面白くない・・との評価が出て、翌年の採用チームは、種々のタイプを採用するような「自分にないものを求める」チーム構成となり、型にはまらない人が何人か採用されることが繰り返されていました。

そう思って、各採用年次の特徴を見ると、「確かに。なるほど。」と思ったものですが・・・当然、私は、後者の採用チームで、型にはまらないタイプとして採用された1人だったのでしょう。

 

しかし、補佐以下の判断で内々定が決まっていたとしても、やはり人事課長たる者、採用予定者を一度は見てみたいというのは当然であり、採用担当補佐からは、形式的なものと言われましたが、内々定の出た直後に、人事課長との面接日程が組まれました。
内々定の出た数名が、人事課長面接のために待機し、順次、名前が呼ばれます。それぞれ緊張した面持ちで面接室に入り、ホッとした顔つきで出てきて、私の順番になりました。これまでと違って、役所の問題を指摘するつもりはありませんでしたので、型通りに回答して終わるものと思っていましたが、そうはなりませんでした。

 

何がきっかけで、そうなったのか未だに不明ですが、面接の途中から、人事課長の発言が刺々しくなり、私の揚げ足取りのような発言が続き、最後に、「君と一緒にやっていく気がない。」との言葉が投げつけられました。私も、厚生省に入りたいわけではありませんでしたので、そこまで言われたので、「私も同様です。」と言い返して、その場を立とうと思いましたが、同席している採用担当補佐が困り切った顔をしているのを見て、そこまですると採用担当者が困るか・・と思い直し、何も言わずに部屋を出ました。

もちろん、部屋を出た段階で、「あそこまで課長が言っているのですから、採用のことはなかったことにしましょう。」と採用担当に伝えましたが、「ボタンの掛け違いだから、そんなことは言うな。私が、もう一度説得するから。」と言われて、その場は終わりました。

 

課長と補佐の間で、どのような話があったかは不明ですが、内々定が取り消されることはありませんでしたので、あそこまで言っておいて、採用する役所も面白いかとも思う一方で、「補佐クラスは本音で話せる人が多い面白いところだが、課長クラスは権威的でつまらぬところ。」と、厚生省に対する認識は、すっかり冷え、親との関係があっても、せいぜい10年が限界と見切りをつけました。

これが、入省直後の私のマイナスの感情の原点ですが、かえって、組織や仕事を冷静に見ることができた面もあり、今では、よい機会だったと思います。あやふやな気持ちで役所に入っても、かえって拙い結果になったと思うからです。

 

さて、内々定を得て、二次試験も合格し、余程のことが無ければ、厚生省に採用されることになった段階で、「厚生省に入ることにした。」と、福井に戻り、両親に報告しました。
父親は、採用先が、自分の希望通りではなかったものの、国家公務員になることは喜んでいたようでした。自分の息子の将来の安定を喜んだのか、自分の苦労を息子で返せると思ったのか、それらが混ざった感情なのでしょうが、さすがに、後日、父親が試験合格の通知書を「一ケタの合格だから」と実家の壁にかけたのは驚きました。今でも、それは壁にかかっていますが、困った父親です。

 

これで父親への返済義務を免れることになりましたが、早々に「10年が限界」と伝えるのは忘れませんでした。
確か、国家公務員の勤続年数は、条件に入っていなかったはずです。