Episode135「若手の勉強会を始める 実現は20年以上の未来」

2015年9月28日

入省1年目の後半に、企画課の法令係長のYさんの発意で、若手の勉強会が始まりました。

テーマは、「今後の児童福祉・障碍福祉」といった大きなもので、係長以下の法令担当と千葉県から出向していた企画課の専門官(正確には主査待遇)のメンバーで始まったと記憶しています。

 

通常業務終了後に、皆で集まって議論するという企画ですが、国の役所では、事実上、残業代は出ません(当時、月200時間残業しても2万円・・時給100円といった状況)ので、考えようによっては、趣味の集まりとも言えます。

始まる前は、「面倒な話だな・・」と思ったことは間違いありませんが、社交界の活動も飽きを感じ始め、仕事も面白いと思い始めた頃でしたので、回を重ねるごとに、面白くなってきました。現実を知らずに議論しても意味はないとうY係長の発想から、彼が幹部を説得して、当時、先進的と言われる施設・事業をいくつか拝見する機会も設けてもらったのも、その面白さを高めたのでしょう。また、それまであまり話をすることもなかった企画課の専門官から聞く、現場の話や彼の考え方も、興味深かったのだと思います。

 

Y係長の問題提起に対して、他のメンバーが検討・議論するという形式でしたが、前回書いたように、当時の福祉部局は予算中心主義で、サービス論や制度論は影が薄かったことから、ある時、Y係長に、「議論自体は面白いが、これが実現するとは思えない。」と聞いてみました。

係長の回答は、「千三・千三」と繰り返すものでした。
「役所の仕事は、千の提案をして三つくらいしか話がまとまらない。」という意味のようでしたが、私の気持ちとしては、わかったような・・わからないような・・。
後年、Yさんに当時のことを聞くと、「あのままでは福祉部局もダメになると思ったし、若手もあの雰囲気を当たり前と思うのは拙いと思った。専門官も議論に飢えていたので、よい機会と思って、勉強会を始めた。」というものでした。ただ、彼としては、その時、すぐに実現できなくても、いずれ必ず実現しようと思っていたとのことです。

 

Y係長が異動する際、幹部の計らいで、若手勉強会の報告が新局長等になされる機会が設けられました。
「児童の育成のためには、育児休業を普及することが必要であり、そのために社会保険の保険料の軽減・免除等の誘導措置が必要」
「障碍者の施設を障碍種別ごとに作ることは、多くの地域では無理があり、障碍を限定しない施設・事業を、それも小規模で整備することが必要」
「障碍児の施設は、大人以上に再編が必要であり、医療型と福祉型に区分したうえで、統合等を進めていくことが必要」
などをはじめとする、当時としては画期的な提案をY係長は報告しました。当然のように、幹部からは、否定的な意見も出されましたが・・特に結論を得ることはありませんでした。

 

それから7年後、Y補佐が主導して育児休業期間中の年金・医療の保険料免除が実現し、約20年後、私の関わった障碍者自立支援法で障碍別の施設類型は終了し、さらに数年後、児童施設の再編が行われました。児童施設の再編には、勉強会参加の当時の主査が、学者として、再編の検討会の座長として座っていました。

この3人が集まると、必ず、当時の勉強会の話となり、「千三」の話となりますが、いずれも当時のことは、よく覚えており、それぞれの今に繋がっているのでしょう。私も、この勉強会がなければ、その後の職業人生は大きく変わっていたと改めて思いました。

 

当時、Y係長からは、諸先輩に「無礼な」態度をとる私に対し「お前の上司は誰だと言われても、俺とは言うな!」とよく言われましたが、今なら問題ないでしょう。

当時、良い上司に出会えてよかったと思います。ありがとうございました。

ただ、自分自身、後輩たちに、同じ思いを残せたか・・これは怖くて聞けません。