Episode117 「仕事を引き継ぐ難しさを知る 何を伝えるかを考える」

2015年3月28日

定例異動を2か月後に控えた頃、後任者への引き継ぎについて考え始めました。
年齢的に次の異動では課長補佐になることは間違いなく、援護局での係長の仕事は2か月程度で終わることは明確だったからです。
入省以降、その時までに、局を超えた異動は2回ありましたが、いずれも、私の後任者がおらず、自分と一緒に仕事をしていた他の人に自分の仕事を割り振るものでしたので、事実上、引継ぎとは言えませんでした。このため、個人的には、今回が最初の引継ぎでしたので、どのような方法が良いのか自分なりに考えたものです。

 

援護局の仕事は、過去の事実に立脚するものであり、歴史的な沿革を知らないと、全く役にたちません。

したがって、私の後任者には、その事実を知り、理解してもらうことが必須なのですが、これは残念ながら引継げません。私が2年間で蓄積した知識と経験を、短期間で後任者に理解し行動させるなど、土台、無理な話です。

私ができることは、後任者に読むべき書籍等を示すまでであり、後任者自らが、目的意識を持って、これら必要な関係書籍等を読み、理解することに期待するしかありません。1年先輩に相談しましたが、やはり同じ考えでした。

しかし、援護局に残ることが確実な先輩の立場からの発言にヒントがもらえました。

「問題なのは、後任者が準備期間を終えるまでの1か月程度の期間、どのように対外的に発言し行動するかだ。」

 

当時の係長は、当時、いわゆる消極的権限争いの仕事が多かったことから、他省庁との会議で、少しでも従来と違ったスタンスの発言があれば、「厚生省で検討を」との流れになりやすい環境にあったことは間違いありません。
そこで、1か月の行動規範という意味で、数枚の簡単な資料を作ることにしました。
第1は、発言に注意すべき事項(消極的権限争いの場で行われる定番の発言と基本的背景)
第2は、当面の活動事項(当面予定されている訴訟、会議等に係る発言方針と基本的背景)
第3は、勉強すべき事項(当面理解すべき書籍等と案件ごとのキーパーソン)
という内容ですが、いわば当面の行動指針と勉強のガイダンスの組み合わせです。
最終的には、1か月程度で、自らの努力で戦力になるべく頑張ってもらうしかないという発想でした。その資料は、局内で、しばらくの間、異動者に対する基本資料として取り扱われたと、後日、聞かされましたが、苦労して作ったので、嬉しかったものです。

 

さて、その後も、異動のたびに引き継ぎを行いましたが、この基本線は維持しました。
第1から第3は、内容は異なりますが、組織に応じて、必ず、こうした事項があります。これらを整理して、後任者にわかりやすく示すことが、前任者にできる最善・・そこからは後任者の自覚と責任の問題と割切ったこともあります。
ただ、これらの中で、最も苦労したのは第3の勉強すべき事項の整理でした。

 

当時の厚生省は、書類の整理保存がデタラメで、過去のファイルをみると、最終・確定版なのか・検討途上なのか、幹部で議論したのか・個人検討なのか等々が、全くわからず、ある時代は山のようにファイルがあるが、ある時代はほとんど何もないという状況でした。
私も異動の際には、前任者から引継ぎを受け、あれこれファイルの場所の指示も受けましたが、ほとんどは次に異動するまでの間は見ることはありませんでした。したがって後任者に勉強すべき事項等を示す前提として、管理下にある書類の整理が重要事項でした。
数日にわたり管理下のファイルをチェックし、必要なものと不必要なものを分けて、必要なものだけで再度ファイルを作り目次を付すという作業を始めましたが、実際にやってみると、必要なものはほとんど残りません。

さすがに決裁文書は残しますが、書類数の割には中身がないというのが現実でした。

 

これも何回か繰り返すうちに、着任後、半年を経過した段階で、管理下のファイルのうち、当該期間に使用しなかったものは、そのまま廃棄することにしました。半年経っても使わないものは1年経っても使わないし、仮に見ても、ほとんど使えないとわかったからです。
また、自分の仕事も異動までに結果を出せば、その前の資料は不要になる・・自分が結果を出せば、その結果資料と次の課題が整理された資料、そして空いたロッカーが引き継がれ、それらを後任者が自由に考えて使うほうが合理的とも考えるようになりました。

 

引継ぐべきなのは、過去の仕事や資料ではなく、未来に勉強する環境(情報)や検討課題なのだと今は思います。
過去、引継ぎの際に、できるだけツケを回さないように頑張ったつもりですが、その評価は、私の後任者から聞かないとわかりません。