Episode113 「上司に代わって判断することも大事な仕事」

2015年2月18日

旧厚生省の仕事は、法律や制度を作り、それに基づき予算を確保し、都道府県・市町村に配分して、その執行をお願いする形式がほとんどでした。しかし、援護局(当時)だけは、その組織的沿革が、復員・引揚という実際の業務を行う引揚援護庁にあることから、私が所属した時代でも、その業務は、ほぼ全てが自ら執行する形式~いわゆる現業部門でした。

 

そのせいか課長以上を除くと、法令担当が5人しかいませんでした。当時、他の局では、少なくとも10人程度は法令担当がいましたので、援護局は半分程度の小所帯。しかし、現業局とは言っても、それなりに組織管理的な仕事や法令的な仕事はあります。

 

当時、厚生省が関わる国会の委員会が開催されている場合には、原則として、官房から全局に国会待機の指示が出ました。他の法案審議であっても、直接関係のない援護関係の質問が出ることもあるからです。ただ、それを受けて、各局で、どう対応するかは局の判断であり、通常は、法令審査員(現在の政策調整員)と呼ばれる筆頭課(総務課・企画課・庶務課等)の法令担当補佐の判断で行われました。

 

ところが、私の上司に当たる法令審査員は、席をはずすことが頻繁にありました。小所帯のためでもあるのでしょうが、彼のキャラクターもあったのだと思います・・。いずれにしても、書記室と呼ばれる官房と局の連絡役は、指示を仰ぐべき人がいないので、私のところに近寄ってきます。

想定される質問者の顔ぶれ、関心事項等の情報を見れば、援護局としては待機するのは1~2名の連絡役と緊急対応できる人材だけで十分と誰しもわかりますが、それで良いと「太鼓判」を押さないと組織は動かないものです。やむを得ず、法令審査員に代わり太鼓判を押し、自分は緊急対応の1人として席に居続けるということが繰り返されました。

そのうち、法令審査員が居ても書記室の人は私に直接相談に来るようになってしまいましたが、組織全体のためには、それが良いと諦めました。

 

一方、援護年金改正を恩給法に準拠して改正するなどの援護局が責任を持つべき法律改正案の審議が行われる場合には、ほぼ局全員が待機となります。援護局が関与する法案は、その内容からして、誰も反対するものではありませんので、お役所側の不手際がなければ、審議は順調に進むはずのものでした。

しかし、ある国会議員のところに説明に行ったところ、予想外の事項でひっかかりました。議員は役所のスタンスに納得せず、「この点については明日質問するが、○○という回答でなければ、審議を止める。」と通告されました。審議が止まるということは、法案審議の日程が遅れ、その結果、次に控える他局の法案審議が遅れ、場合によっては省として予定している法案の一部が成立しないという問題につながります。したがって、誰しも審議が止まるような事態は避けたいと考えるものですが、議員の状況からみて、その場でやりとりを続けても無駄と判断し、同席していた1年上の先輩とともに、法令審査員のところに相談に行きましたが、なぜか不在・・。

 

自分の局の法案審議の際には、さすがに法令審査員は、問題対応のために原則として席を離れないものですが、どこに行ったかを聞いてもわかりません。やむを得ず、筆頭課長に直接相談・・そのまま局長室で相談となり方針が決まりましたが、当の法令審査員は局長室の相談後に席に戻り、私から報告すると・・「任せる」の一言で終わりです。
翌日、委員会の場で、当該議員の出番となり、通告された質問がなされました。それに対して大臣が答弁を行ったところ、通告通りに委員会は中断・・質問者と委員会理事と大臣が協議に入りました。協議が整い、大臣が確認答弁することで再開の運びとなりましたが、その際、大臣からは「今から言うことを紙に書け」と、近くにいた私に口述筆記の指示が出ました。

字が汚いために普段はペンを持たない私でしたが、読めるようにと、必死で書いたことは、よく記憶しています。幸いなことに予定通りに法案は可決されし、他へ迷惑をかけることはありませんでした。

 

当時、不在がちな法令審査員の行動に対して不信感は隠せませんでしたが、今から思えば、その結果、組織を管理する法令審査員の仕事の一端を10年早く経験させてもらったのだと思います。

それを意図した行動なのかは不明ですが。