Episode111 「上司は また その上司に弱い」

2015年1月28日

援護局勤務の2年間の途中に庶務課長の交替がありました。確か平成4年のことです。
新任の課長は、はじめて援護関係の仕事をすることもあり、外出時には、よく私に同行を求めました。いわゆる鞄持ちです。

真面目な人なのですが、これから始まる会議の見込みや、終わった打ち合わせの背景などを、時には、面白そうに解説してくれました。例として、前回の慰藉施設の予算要求に関するエピソードを一つ紹介します。

 

最初の予算要求(基本設計等)には、本来、施設の外観等のイメージは不要なのですが、庶務課長は、既にあった二つの案をもって関係者に説明に行くと言い出しました。この二つの案は、普通のビルの形のものと、変形した形のものの二つでしたが、基本設計が終われば、いずれも役目を終える~違う形になることが確実なものでした。
そのため、私から、「不要なのでは」と問いかけると、課長は、「こういうものは事前に見せておいて損することはないものだ。」と、省内幹部の説明に向かいました。
しばらくして戻ってきたので、「どうでした」と聞くと、「普通の形のほうが良いと言っていたが、○○議員に説明に行くと言うと、『彼の意見を尊重するように』との話だった。」と言って、ニヤッと笑います。

 

翌日、○○議員のところに、課長が説明(私が鞄持ち)に行きましたが、議員は私のほうを見て、「若い人は変わった形のほうがよいのではないか。」と言い出しました。本当は、どっちでも良いのだろうな・・と思いましたが、課長は、「では、こちらを念頭に基本設計を行います。技術的に問題があれば、変更になりますが。」と、真面目な顔つきで応対しています。
議員の所から省に戻り、課長が省内幹部に結果報告に行きました。しばらくして戻ってきたので、「どうでしたか」と聞くと、「○○さん(省内幹部)に、○○議員の反応の話をしたら、『よく見れば、この変形の形のほうが良く見えるな』と言っていた。」と笑います。
さらに、「こういう組織で仕事をするのであれば、『上司は また その上司に弱い』ということを忘れるなよ。」と続けられました。

 

私なりに理解したのは、ものごとをスムーズに決めて進めていくには、事前の情報提供を忘れるな(後から、俺は聞いていないと言われると取り返しができない)・・しかし、誰がキーパーソンかを考えろ。キーパーソンでない人との間で無駄に時間をかける必要はない・・ということでした。
これは、ほんの一例でしかありませんが、こうした行動に関する解説を課長から聞くのは、初めての経験でしたので、20歳代の若かった私には、面白く感じることが多かったのは事実です。時には、生々しい解説もありましたので、20歳代の私には、過度な刺激となり、その後の役所人生を、少々急がせた要因になったかもしれませんが。

ただ、こうした解説をしてくれた課長は、特に熱弁を振るうでもなく、着実に、もめ事を解決し、決め事を固めていく、地味ながらも安定感のあるタイプでしたので、私自身、自然と、そうしたタイプを目指すようになった気がします。少なくとも、口ばかりで実のない人、人によって言うことを変える二枚舌の人を嫌うのは、この時の経験によるところが大きいのでしょう。

 

ちなみに、この慰藉施設は、外観デザイン・展示方針等も、当初の予算要求の際の骨子とは異なっていますが、紆余曲折を経て、平成11年3月に「昭和館」という名称で開館しました。

未だ、一度も行ったことがありませんが、個人的に想い入れのある施設であることは間違いありません。