Episode108 「外部の人と勉強会 知識・経験が増えると考える幅が広がる」

2014年12月28日

保険課は健康保険組合等を担当する組織で、直接、産業界との付き合いがあるわけではありません。そのためか、業界等の意向に左右されることなく純粋に制度論を考える雰囲気がありましたが、逆に言えば、世の中の常識からズレた結果を導く危険性もありました。

 

当時は、そうしたことも意識しないでいましたが、国会に法律改正案を提出して一息ついた頃、お隣の医療課の企画官から、「今度、医薬品産業の人たちと若手勉強会を開催することになった」と参加を促されました。
国会審議、施行準備と忙しい時期が続くことが予測されましたので、正直、こうした会に参加するのは否定的でした。私の親族に検察関係者もいて、業界との付き合いは慎重にと助言されていたことも影響していたと思います。しかし、先輩から「最初だけでもよいから」と強く促され、やむを得ず、最初の会に参加しました。

 

その頃は土曜日も隔週で出勤日でしたので、その土曜の午後に開催~いわば自由時間を削っての参加でしたが、医薬品産業界の参加者は何となく殺気立っているように感じました。開催された経緯を聞いていると、4月に実施された薬価改定で医療課が「乱暴な」ことをして産業界の怒りを買い・・その落とし前をつけるため~正式には双方の意思疎通を図るという目的で勉強会が開催されたと理解できました。
私を会に誘った企画官は、その場にいなかったので、正直、「先輩に騙されたな・・」と思ったものの、今後の会の予定を聞くと開発部門の人の生の声を聴けるなど面白そうな企画もあり、また、参加者の方の話しぶりから嘘のない人達とも感じたので、しばらく付き合ってみるかと思いました。秋には外務研修に行くという個人的な期限が切られていることも後押ししたのでしょう。

 

月1~2回のペースで勉強会は続きましたが、私の知らない話の連続であり、また疑問に思ったことを素直に聞くと、「それは業界の弱点です。検討が必要ですね・・」などと正直な回答もあり、良い雰囲気の集まりとなっていました。
私は、外務研修に行くことになり、途中で会を離れましたが、当初とは異なり、少々、残念な感じであったと記憶しています。たった数か月の意見交換でしたが、確かに、自分自身の知識は深まり、視野が広がっていたと思います。医薬品産業界に対する見方も表面的なものから、深みのあるものになったと感じました。

 

こうした経験は、早速、中国赴任中に役に立ちました。中国政府と日本の製薬産業の接点を作るという機会があったのですが、その会で得た知識が活用できました。ただ、日本側の体制の弱さに呆れて、勉強会で知り合った人に苦情を言ったこともあります。

また、帰国後、着任した医療課では、まさしく、その時の知識、経験や人間関係が、直接、活かされることになりました。当然のことながら、産業界には厳しい結果をもたらすのですが、それは産業再編が必要だなと・・勉強会や中国経験で自分なりに得た実感に裏打ちされた判断でした。

 

さて、この勉強会の体験~外部の人との接触で知識・経験が増えると考える幅が広がるという実感は、その後のお役所人生の中でも、何回か私的な勉強会を開催したり、また、後輩に勉強会参加を促したりと、大きな影響を与えたのだと思います。これは役所を辞めた後も同じです。
「財を残すは下。事業を残すは中。人を残すは上なり。」との後藤新平(写真)の言葉に影響を受けたわけではありませんが、医療や介護の事業を本当に良いものにするには、最後は人~それも経営層の質だなと思います。残念ながら、私が直接、人を育てることはできませんが、人が育つ環境を作ることはできます。いろいろやってみましたが、結局は、この外部の人と一緒に考え行動するという手法が、唯一効果的な方策のようです。

 

内輪のメンバーで、また狭い知識と経験だけで、何をやっても結果は知れています。
しかし、今の役所や事業体は内輪で小さく固まろうとする風潮が強いと感じられるのは不思議なところです。