2014年10月28日
橋本総理訪中時のもう一つの仕事、総理演説の事前調整も概ね順調でした。
ただ、総理周囲の意向で、聴衆は中国側だけでなく北京在住の日本人も対象とされたことが、当日、冷や汗をかくことに繋がるとは考えもしませんでした。
北京在住の日本人を、100人以上を選定し、当日確認し、会場に移動させるのは、さすがに一人では無理なので、本来ロジ要員ではありませんでしたが、チームとして信用できる領事部メンバーに、事実上の協力を要請しました。
快く引き受けてくれた彼ら彼女らは、日頃の良好な日本人会等との付き合いを活かして、人選を依頼し、短期間で確定してくれました。もちろん選定された方は、身元も明確な人ばかりで、セキュリティの面でも問題ないのは一目瞭然でした。
それでも、総理演説の途中は警備の都合で入場できないため、どうしても総理到着の前に会場入りし着席していることが必要でしたので、当日の朝は、講演参加者を大使館前に集合してもらい、一行をバスで余裕をもって会場に送るという方針にし、仮に、出発時間に遅れた場合には、会場に入れず演説は聞けない・・と参加者に周知徹底もしました。
あとは、大使館前で受付・確認、大使館前に用意のバスへの乗車、予定時間に出発、余裕をもって会場入り・・というシナリオ通りに運ぶだけでした。当日も大使館前で受付・確認、大使館前に用意のバスへの乗車が順調という連絡が入り、既に会場にいた私は、安心していました。
予定通り、総理が現地に着く前に会場に入るだけと思いきや・・・日本人一行の到着予定時間を大幅に過ぎても大使館を出発したはずのバスは到着しません。
領事部のメンバーに連絡すると、「概ね受付は終了したので、バスに乗り込むエスコート役の参事官等に、○○時になったら遅れる人がいても必ず出発することと強く念を押したうえで、通常業務開始のためオフィスに来た」との回答です。
そこで、バスに乗り込んでいるはずの参事官等に電話をしても出ません。⒑回以上電話をしたでしょうか・・やっと繋がると「遅れた人がいたので待っていたら出発時間が30分程度遅れた。今は○○にいるが道が混んでいて進まない。」との悠長な回答に・・さすがに、「総理演説の途中は警備の都合で入場できないので、大きな空席のままで講演が進むことになりますが、やむを得ないですね。」と回答するのが精一杯でした。
バス所在の場所は、順調に進んでも、総理到着時間前ギリギリに着くのが精一杯のところであり、無意味とわかりながらも・・門のところに行ってはバスが来るべき方向を眺めることを繰り返しました。思わず、「何とかしてくれ」と、日頃、不信心な私も神に祈るような気持ちでした。
最終的には、事の重大さに気づいた参事官等が、バスの運転手を半ば脅迫し、信号無視等も繰り返して会場に急行・・タイヤを鳴らして急停車したバスから一行が会場に駆け込むと同時に、総理の車列が到着という劇的な瞬間を見ることになりましたが、あの時ほど、緊張から解放されホッとしたことは、これまでありません。
その場にいた公使から、「普段は動じる風のない君だが、さすがに今回は焦っていたね。初めて見たよ。」と言われましたが、苦笑するしかありませんでした。
得難い経験をしたと今では思いますが、当時、一国の総理に恥をかかせずに済んだのは、やはり日本古来の八百万の神のご加護かもしれません。
今度、神社に行ったら、その時の御礼をする必要がありそうです。