Episode101 「人の輪があれば 一人でもなんとかなる」

2014年10月18日

総理が外国を公式訪問する際には、大使館全体が、事前準備に始まり当日の行動支援まで極めて忙しい状況になります。

基本的には、外国側が受け入れ態勢を整えるのですが、中心となる総理の面倒はみても、それに同行する者等については、あまり配慮はしません。そのため、大使館の出番となるわけです。

 

私の在任中の総理訪中は1995年2月の村山総理と1997年9月の橋本総理の2回ありました。ただ、1995年は赴任直後でしたので参加することはありませんでしたが、橋本総理訪中の際には、大規模なロジに参加することになりました。

 

私の仕事は、総理に同行した経済界100人程度の団体の行動支援をメインに、総理講演の場を中国側と調整することでした。いずれも大使館では私一人が担当でした。一人での仕事は数多く行っていましたが、さすがに、これほど大規模なものは初めてでした。
もちろん経済界一行の支援は、中日友好協会という中国外交部の外郭団体がメインで、私は連絡調整役という立場ですが、経済界一行がどう動くかは総理の動き等で変わります。総理が表であれば、経済界は表に沿って動く・・いわゆる裏ロジと呼ばれていましたが、その成否は、私から協会に伝える情報の精度にかかっていました。

 

経済界一行は、全てを総理と行動を共にするわけではありません。全員が総理と一緒になる場合、一部の人だけが総理と一緒になる場合、全員が総理と別行動になる場合とパターンが分かれますが、これらは私が参加しない場で決まり、その方針が私に伝わってきて初めて、経済界一行の中国側の支援準備(メンバー・車両・行先経路・出発時間・滞在時間・連絡体制等の確定)が着手されます。
問題は、これらの方針が人によって言うことが違うなど、情報が錯綜した場合です。ある情報を信じて仕事を始めたら、数時間後には前提が違っていたことがわかり元の木阿弥・・疲労蓄積を繰り返す悪循環になりますが、この時も、そうした状況になりかけていました。
そこで、経済界一行の動きに関する伝達を待つだけではなく、表の総理の動きを捕捉することにしました。総理の動きがわかれば、経済界の動きの情報の正当性も確認でき、無駄が減ると考えたからです。これが成功しました。

 

総理と経済界一行の情報に矛盾があれば、再度、私が確認することで、私や協会の無駄な時間が減りました。正確な情報が協会に伝わることで、私と協会の方の信頼関係も高まり、その後の実際の行動支援の際も、大過なく終わることにつながりました。
途中、不思議なことに、大使館内の総理支援を担当する各部門の方からも問い合わせが来るようになりました。総理支援の本体チームは人数が多過ぎて、正確な情報把握に支障が出ていたのが背景のようですが、「裏が表を仕切る」・・面白い感じがしたのは事実です。

 

この協会とは、この時の仕事が初めてではなく、赴任期間中に何度か個別のロジで顔を合わせ、また組織の性格上、領事部との関係も深く、領事部の他のメンバーとともに、何度か食事等をしていたことが財産になったことは間違いありません。

日本に帰国した後、東京で、当時の協会の方と当時の領事部のメンバーで食事をする機会がありました。

その際、彼ら彼女らとの人の輪があって初めて、仕事がうまく行ったのだと、改めて実感したものです。