Episode96 「農村の医療状況を知る 未舗装の道を車で8時間」

2014年8月28日

私の在任当時は、対中国に対して無償資金協力を行っていました。
毎年、中国側から協力対象の提示と、その現場を見て欲しいとの要請が大使館経済部に行われました。通常は、無償資金協力の担当者が行くのですが、その都市は、地方の医療施設への医療機器の供与ということもあり、無償資金の担当者から「一緒に行かないか」とのお誘いがありました。
行先は、四川省と雲南省。四川省は、南充と広安の2地域・・広安は、改革開放を推し進めた鄧小平氏の故郷です。調査レポートを書くというノルマはありましたが、あちこちの地方を見てみたいという意欲にかられ、考えることもなく同行を了解しました。
北京から飛行機3時間程度で省都の成都に到着。そこでの地方政府との面談等を終えて、翌日から、さっそく地方周りです。当時は、今のように高速道路等の整備も進んでおらず、舗装されていても凸凹が多く、また、川沿いの切り立った崖の道でガードレールもない場所もありました。そこを80km/h以上の速度で走るのですから、体は痛いのはもちろん、怖くてたまりません。数度の休憩を経て、約8時間で最初の目的地南充に到着です。
痛い体を引きずりながら、夕暮れに地方政府との面談を終えて、ホッと一安心です。「生きててよかった!」という感じでしょうか。
翌日、体を休める時間もなく、市内の宋代白塔(写真)を横目に見ながら、目的の病院の状況を視察に行きましたが、予想通りに設備も医薬品も不足していることは明らかでした。中国側は、設備等の必要性を訴えますが、一方で、電力状況などを聞くと、停電も多く、電圧も不安定のため電気も明るくなったり暗くなったりとのこと。電力が不安定な地域では、電気が必要な医療機器は、使用しても検査結果等が不安定になるため、実際には、使用に耐えません。医療には、一定以上の都市インフラが必要ですが、そのギャップをどのように埋めるか・・協力の際に大事なポイントです。
さて、視察中に、中国側から「農村の医療機関を見るか」と問われて、軽い気持ちで「行きましょう」と答えましたが、あとで少々後悔しました。
またもや車で山道を2時間程度、車が止まったので、「到着か・・」と思いきや、「ここから徒歩で1時間強」との由。ここで引き返すのも日本の恥と頑張って歩きましたが、足には血豆ができ、出血するという悲惨な状況に・・
ただ、そこで見た農村の生活状況や医療施設の状況には驚かされました。
明らかに現金収入はゼロに近く、ほぼ自給自足の生活と思われ、村の排水設備も未整備で、衛生水準も著しく低いことがみてとれました。
唯一の医療施設に行くと、そこに働く人は、いわゆる「裸足の医者」で専門的な医学教育を受けた経験はないとのこと。置かれている医薬品は、30種類程度・・なかには品質保持期限を過ぎているものもありましたが、経済的な理由から、捨てずに使うしかないとのことでした。先にみた病院が立派に思えるくらいです。
北京等の大都市での生活と比べると、あまりの落差に唖然としたものですが、北京で中国側政府機関の方が話す「都市と農村の格差」の意味を、本当に理解したところです。
ここまで現状を目の当たりにした日本人は少ないと思いますが、私にとって得難い時間であったことは間違いありません。