2013年12月28日
改定率は、薬価や診療報酬全体の改定率の他、医科、歯科、調剤という科別の改定率を決める必要があります。
古くは薬価や診療報酬全体の改定率は中医協の合意で決め、各科改定率は全体の改定率が決まってから、医療課が関係団体と話をして決めるという手順でした。
しかし、全体の改定率が政治過程で決まるようになった1998年度改定では、改定率が決まってから医療課が従来通りに各科配分を決めようとして、非常に厳しい状況になったと聞いていました。政治で決めたものを、役所で再配分するわけですから、関係者の納得が得にくいのは、ある意味、当然です。
したがって、各科改定率をどのように決めるかは、2000年度診療報酬改定に際し、医療課固有の大きな問題でした。これも補佐の深夜の雑談の中で、「どうせ全体改定率を決めるのに大変な思いをするのだから、その後、また大変な目に合うのは避けたい。」と、当然のように意見が一致し、全体改定率が決まれば、自動的に各科改定率も決まるような仕組みを考えることになりました。
当時の各科の医療費規模の比率は概ね8:1:1~これを前提に、いくつかの案を考えましたが、実際には、正解のないパズルのようなものです。無限にある組み合わせの中から、最終的には、当時の与党は歯科を大事にしたいと思っている状況、また調剤医療費が急速に伸び始めた状況を踏まえ、医科と歯科は同率(従前は医科>歯科が常態でしたが・・)、調剤は医科や歯科より低い率を基本とし、万が一、政治過程で歯科を特別に評価しろという意見が出た場合の特別措置というオプションを用意するという方針となりました。
具体的には、調剤が低率でも納得する理由が必要ですので、当時の調剤医療費の内訳が、報酬部分が4割、医薬品部分が6割であることに着目し、医科:歯科:調剤の比率を1:1:0.4としても、調剤の報酬部分に限ってみれば実質1(=報酬分4割/配分比率0.4)であるとの説明を用意し、歯科には金銀パラジウムの合金である歯科材料について新たな価格変動の仕組みを設けるために必要な財源として0.5分を用意するというオプションを準備しました。
これは当時歯科と調剤の医療費が同規模という条件下では、資金の動きだけで言えば、調剤から切り取った0.6分を歯科に回すというだけのことですので、全体改定率がどのような水準になっても対応できる単純で明快な仕組みでした。
もちろん、このアイデアは医療課内では課長まで合意形成を終えておきましたが、企画課には事前説明はしませんでした。忙しいというのもありましたが、各科改定率も政治過程で決めてもらいたいという医療課の意向を実現するには、別の手順が良いという自分自身の判断もあったことは事実です。問題は、その手順をいつ進めるかでした。
全体の改定率が決まりそうな雰囲気が出てきたので、この案を実現すべく、かねてからの頭の体操の通りに医療課独自で動き出しました。ある管理官に、担当する団体に基本方針(1:1:0.4)を説明し了解を得た上で、「関係議員のところに、その内容を陳情に行って欲しい」と説得する旨を依頼することで始まりです。
管理官の努力により、団体は関係議員に各科配分について陳情に行き、事情のわからない議員は企画課長に確認し、何も聞いていない企画課長は医療課に確認に来るという、私の思惑通りの動きになりました。
ここで始めて用意していた1:1:0.4の配分と歯科のオプションを説明しました。単純で明快な仕組みでしたし、時間もないので厳しく詰められることもなく、企画課長は議員のところに説明に行き、了解を受けました。事実上、全体の改定率が決まる前に「各科改定率の決め方」が決まりました。
ここまでは順調だったのですが、予想以上に2000年度改定では歯科からの要請が強く、歯科合金のオプションにより、事実上、医科:歯科の比率は1:1+0.5になっても納得せず、徹夜明けの朝までかかって、やっと終結しました。
しかし、逆に、過去のように各科改定率を、医療課ではなく、政治過程で決めてもらって良かったと思ったことは事実です。与党の政調会長でも合意形成に徹夜したくらいですので、医療課がやっていたら・・とゾッとしたものです。
さて、この1:1:04の配分比率は、例外はあるものの、10年間は維持されることになりました。
某事務次官は、「各科配分は、1:1:0.4に決まっているのではないか」との名言を吐かれたと聞きましたが、それほどまでに定着するとは、当時は思いもしませんでした。
一度、何らかのルールが決まると、これを変える人は、なかなか出てこないものです。