2013年12月8日
2014年度診療報酬改定を間近に控えて、今まさに中央社会保険医療協議会(中医協)は、医療提供側も負担者側も臨戦態勢の状態です。
医療提供側は、いかに医業経営が不安定な状態にあるか、医療が不十分な状態にあるかを訴え、負担者側は、いかに国民の負担感が重くなっているか、また医療には効率化余地が多いかを訴え、どう見ても、合意ができるような状態には見えません。
しかし、2000年度診療報酬改定の頃は、医療提供側と負担者側の双方が議論し合意して改定率を決めるという雰囲気が残っており、12月中旬は、改定率を巡る中医協の議論が紛糾し、負担者側が退席して中医協が中断、再開に向けて協議するなど、今の政治過程で改定率が決まるのが普通となった時代とは異なる雰囲気がありました。
結果的には、双方が合意することはなく、それぞれの意見をまとめて、改定率の議論が終わり、政治過程に委ねる結果となりましたが、不思議なもので、改定率が決まり、年が明けると、軽いジャブの打ち合いはありますが、決まった改定率を前提にして、どのような改定を行うかという内容の議論に移行し、いつも通りの議論の雰囲気になりました。たぶん今回の改定でも同じようになることは間違いありません。
やはり、医療提供側、負担者側双方は、改定内容に責任を持つという意識が強いことの表れと思いますが、いろいろな批判はあるものの、今のところ民間部門では、一番、医療について考えている人の集まりであるとは思います。ただ、現在では、委員の任期が短くなったせいか、過去の経過を知らない新任委員の方が、先祖返りのような議論が起こすことが多いのは、少々残念ですが・・。
さて、私は、極力、中医協に出ないようにしていましたが、不思議なもので、各委員の事務方として同行して来る方とは、双方とも仲よくなりました。特に、負担者側の事務方は、経済界、労働界のお二人とも、初めて中医協に関わるという状態でしたので、私から見れば、時期尚早と思われる内容の実現に拘っていました。
そこで、思い切って、彼らに対して、「本当のところ、今回、何を実現したいのですか」と単刀直入に聞きました。「全てを求めても実現することはありません。2年後にも改定があり、その後も続く、いわば持久戦です。一足飛びに実現を求めても相手は理解できないので、少しずつでも進めないと何もとれませんよ。最終的には、双方の合意ですから。」といった旨の話も付け加えました。
お役人である私から、こうした話を聞かされ、相当、驚かれたようでした。役人がこうしたことを言うのにも驚いたのでしょうが、2年に1回ずつ漸進していくという、まるで尺取虫(写真)のような、「悠長な」発想に驚いたのだと思います。
利害調整を行わずに前に進まないのは、医療に限らず、政治行政が絡むことは全て同じです。医療は、中医協という場で、オープンに議論されて利害調整が進むことから、単に目立つだけの話です。利害調整は、どちらかが一方的に勝つということは、ありません。なぜなら、それでは合意が成立しないからです。
利害調整という言葉は否定的な印象ですが、やっていることは合意形成です。相手も譲るから自分も譲る。どちらかが全ての主張を通そうとしても実現することは、あり得ません。だから、立場の違う者の代表者同士で2年に1回というルールで段階的に変えていく・・現状維持の志向性が強い日本人には、緊張感を持ちながらも現実的な問題解決をする方法(負担者代表の参加のない障碍の改定率決定などに比べれば、はるかに健全な方法です)なのだと、事務方のお二人に、幸いなことに理解してもらえました。
二人が拘った件は領収明細書の発行でしたが、当時は、最低限の対応でしたが、その後、毎回の改定で内容が充実し、今では、どこでも当たり前のように発行されるようになりました。簡単なことに時間がかかったことを否定的に捉えるか、それでも実現したことを肯定的に捉えるかは、人によって違うのでしょうが、皆さんはどうでしょうか。
ちなみに、お二人のうち、一人は今や中医協の委員ですが、その人の名前を見るたびに、このことを思い出します。