Episode69 「サルでもわかる・・議論のベースは共通の理解から」

2013年11月28日

前回も記載したように、毎週の中央社会保険医療協議会に向けて最低週1回行われた保険局長室での局議の説明は、私が担っていました。
当初は、局議での説明のシミュレーションを、事前に念入りに行っても、なかなか順調には進みませんでした。私の説明が拙いせいもあったのでしょうが、他の課の課長の皆さんが、基本的な事項をいくつか質問するのを見て、「基本的な知識の段階で、問題があるのではないか」と考えました。

 

保険局長は、当時は、次期事務次官と言われるポストでしたが、過去の保険局の経験は多くても1回か2回。医療課の経験のある人は皆無に近い状態でした。

そうすると、局議で議論しようとしていることは、出席者の過去の経験では知見がないことばかりですので、議論を進めるには、まず、基本的な知識を共有することが不可欠と考えられました。
そこで、まず導入として、薬価算定の基本的なルール・・類似薬効比較方式(効能効果が近い医薬品の薬価を基本に値段を決める=同じ効果なら同じ値段に)、原価計算方式(類似の医薬品がない場合には、製造原価を計算して値段を決める)などを、1事項1枚+図入りで説明する簡単な資料を作成することにしました。

 

薬系技官や財務省からの出向者と相談しながら、「素人でもわかる」という基準で、深夜に、議論と工夫を重ねました。1週間程度で、資料はできあがりましたが、標題が「薬価算定の基本的なルール」などではインパクトがないと皆の意見が一致しました。
私が、「サルでもわかる」でどうだと言うと、深夜帯で気分が高揚しているせいもあって、皆が、「それは良い」と賛同するので、局議資料案の標題に「サルでもわかる薬価算定」と記しました。

もちろん翌日には課内で局議資料の確認があるので、きっと誰かが「それは辞めたほうが良い」と大人の意見を言うものと思っていましたが、会議の場で、窓際に座る室長や管理官が、なぜか面白がって「それで行け」と唆し、課長も苦笑いをしながらOKが出てしまいました。

 

さて、資料を配布して説明するのは私です。その場を想像して、最悪の事態=局長が怒り出すことも考えましたが、自分で提案して一度決まったことを、自ら引っ込めるのも男らしくない・・と割り切り、その場に臨みました。
本席ではなく、後ろに座っている医療課のメンバーも、クスクスと笑うばかりでしたが、思い切って資料を配り、開始の一言です。

「本日は、今後の議論のベースとして、サルでもわかるように、薬価算定の基本的なルールを説明します。」
誰か何か言うかと思いきや、局長から、「面白いものを作ったね。説明して。」と温厚な一言をいただき、会議は始まりました。

 

その当時は、「『サルでもわかる』と書けば、幹部もわからないとは言えないだろう」と強がっていましたが、本当のところは、どうなるかと心臓はドキドキしていたものです。その時の会議はうまくいき、薬価算定のその後の内部議論は順調に進みだしました。

調子に乗って、特定保健医療材料の保険導入ルール等も同じように、「サルでもわかる○○○」という標題をつけて局議に臨みましたが、これらの一連の資料は、「サルわかりシリーズ」と名前がつけられ、医療課の皆さんの記憶に残ることになりました。

 

当時の末席の係員だった職員も、今では政策調整委員になっていますが、この「サルわかり」はインパクトがあったと、最近も話をしました。
もちろん大人の彼は、間違っても「サルでもわかる」とは資料の標題に書いていないようですが、議論のベースとなる基本的な知識の共有には心掛けているようです。