Episode62 「相手の得意分野を理解する そして新しい視点を示す」

2013年9月18日

人間は納得しないと行動できない生き物です。

納得しないことを無理やりやらせても、絶対にうまくいくことはありませんし、そもそも納得しないことは、やろうともしないものです。

 

国の役所の仕事は、最終的には、世の中の人々に、厳しい改正等の必要性を理解、納得してもらうのが仕事ですが、その前に、組織内部にある多様な意見を一つに集約する作業が必要となります。
この場合、同じ事務系の人間であれば、個人差はあっても、それなりに発想、背景は同じなのですが、技術系の人となると、私とは大分違った発想、背景を持っており、意見集約が難しいことがよくありました。

 

こう書くと、厚生労働省の医系技官に対する強い批判があった時期を思い出す人がいるかも知れません。個人的には、あの批判通りの人が一人もいないかと問われれば、「No」とは言い切れません(どんな組織にも1人か2人は変わった人がいるものです)が、一方では、あのような批判に該当する人が多数では組織が動くはずもありません。そうした極端な話ではなく、事務系、技術系 各人の経歴により依拠する知識、判断の基盤が異なるため、それを双方が理解して合意するには、それ相応の努力がお互いに必要だったという意味です。

自分の一方的な考えを押し付けても、うまくいかないことは当然です。

 

医薬品や医療機器の安全対策を担う医薬局では、技術系の職員は、ほとんどが薬系=薬剤師の資格を持つ人でしたが、着任直後は、それなりに構えていました。前職の保険局医療課の際に、医薬品や医療機器の保険導入のルールの見直しを考えていましたが、省内調整で、医薬局との調整が、思いもしないところで難行していたからです。

「きっと、独特の発想がある人たちなのだろうな・・・」と、正直、思いながら日々の業務でいろいろと話をするのですが、簡単に意見が一致することがありませんでした。また、双方とも同じ日本語で話をして表面的にはうまく行っているようなのですが、意味が通じていないとあとでわかることも結構ありました。

 

半年ほどして、当時、自分なりに理解したことは、「真面目に、医薬品や医療機器の安全チェックを考えている人が多いな・・」「しかし、制度がそれにマッチしていなと感じている人が多い・・」「過去の制度改正は、薬害訴訟等を受けたもので、自ら変えるという意識は弱い・・」といったことでした。
そこで、当時、局を事実上動かしている薬系技官の補佐クラスと話をしながら、局として自発的に制度改正をしてはどうかと提案を始めました。

製造を中心とした規制から販売を中心とした規制へ変更、リスクに応じた品目のカテゴリー化と合理的な規制の整備など、自分自身の当時の制度への疑問と、技官の皆さんの想いを、混ぜ合わせながらです。自分自身としては、医療課時代に感じた医薬品供給体制の効率化(企業合併等)を進めたいという意識もありました・・。

 

私の仕事は、幹部の「やろう」という雰囲気をつくるまでで、実際の制度化は、私の後任の尽力で実現することとなりました。楽しい仕事は私が、厳しい仕事は後任者がという結果になりましたが、実際には自分でやりたかったなと・・今でも思います。

 

その後も、いくつかの薬害訴訟と呼ばれる大型訴訟があった一方で、成長戦略の一角を担うようにもなった医薬費・医療機器分野ですが、その歴史を担う技術職の皆さんと、本音で話す機会が得られたことは、貴重な経験でした。ありがとうございました。