Episode61 「縦割りの大組織を動かすには それなりの仕組みが必要」

2013年9月8日

国の役所組織の特徴については、「局あって省なし」「課あって局なし」など、長らく「縦割り」が代名詞となっていますが、これは役所に限ったことではありません。私と同世代が役員等になりはじめている大企業でも、組織の縦割りによる問題発生はよくあることと聞きます。

 

「人が3人集まれば派閥ができる」と言われるように、日本人は集団を造りそれに属することが大好きですが、組織の「縦割り」も、そうした日本人の心情にマッチしているかもしれません。もちろん「縦割り」であること自体は問題ではありません。縦割りによって生じる「問題」が何かが重要です。国の役所では、縦割りに起因する組織間の権限争いが問題視されますが、これも「この仕事は俺たちのもの」と主張する積極的なものと、「この仕事は私たちのものではない」と主張する消極的なものの二つに区分されます。

 

二つの組織の間での積極的な権限争いは、結果として、意思決定の停滞(争って決められない)、手続きの2重化(決まったけど面倒)、予算の重複(資金の無駄)などが生じますが、消極的な権限争いよりは罪が軽いものです。
二つの組織がいずれも「この仕事は私のものではない」と言えば、その仕事は、誰も考えることなく宙に浮くことになりますが、もし、これが危機管理等の案件であれば、それにより、最悪、死亡者が出る場合もあります。国の役所では、こうした最悪の事態が生じないように、また、無駄な時間を浪費しないように、中堅若手世代の最後であり、また、管理職等への始まりでもある世代の職員に、そうした組織間の調整の役割を担わせます。厚生労働省では、そのポジションを政策調整委員と呼んでいました。
いわば、現場を仕切る中堅若手と、対外的な対応を行う管理職指定職とを繋いで絞める仕事で、砂時計のクビレのように、そこを通らないと何も動かない・・そこの調整で決まったことは皆が従うという立場です。

 

私が、そのポジションについたのは、2000年の夏 医薬局総務課の補佐の時でしたが、概ね揉める相手となる医政局や健康局の政策調整委員は、1年生のときから飲み友達で気心の知れた相手であったことが幸いでした。
まずは、「くだらぬもめ事」で帰宅が遅くなり疲弊しないことを3人の合言葉として、1年を始めました。最も、無駄な争いは、翌日の国会答弁の割り振りです。誰しも、可能であれば関わりたくないので、典型的な局間の消極的権限争いになるのですが、3人で示し合わせて、少なくとも割り振りで揉めて作業時間が遅れる愚だけは避けたものです。もちろん局内で、「なぜ引き受ける必要があるのか」と幹部に問い詰められたこともありますが、「相手に押し付けて、大臣が変なことを話したら、後で大変な目に合うのはこっちですが・・」と、理由ではなく損得勘定で何とか切り抜けたこともあります。

 

また、医療関係訴訟等に関しても、当時は、必ずと言っていいほど各局間で消極的権限争いが生じたものですが、とりまとめは医薬局、ただし、それぞれの局に行うべき仕事を割り振る=全員に役割を与えると、何となく、権限争いが薄まったものです。自分だけが酷い目にあっているわけではない・・という人間的な感情が起きたからでしょう。役割さえ決まれば、基本は真面目な国の公務員ですから、粛々と仕事は進んで行くものです。
今では、企業のトップマネジメントように、政治主導でトップが指示することが増えているのでしょうが、今と当時と どちらが公務員の力量が発揮できていたか・・わからないところです。

 

トップの指示は「やらされている感が・・」、中間管理職の調整は「それなりに自発性が・・」という違いがあるのではないかと思うのは、私だけでしょうか。