Episode60 「一つを二つには簡単 二つを一つには無限の努力が」

2013年8月28日

(前回から続く)
それなりの事前準備をしての国際課全体の組織の見直し=業務の一元化(意思決定の一元化)に着手したつもりでしたが、結果から言えば、あまりうまく行きませんでした。

 

当時の国際課は、旧労働が課長でしたので、国際課本課がILO(国際労働機関)とOECD(経済協力機構)の労働部門を、旧厚生が室長の国際企画室はWHO(国際保健機関)とOECDの社会保障部門と分掌していました。統合前の取り決めに従うと、旧厚生が課長となれば、本課がWHOとOECD(社会保障)を所掌するとなりますので、組織規程の改正が必要になる・・・そうした非常識な取り決めであったことは、前回の通りです。

 

さて、その頃は、ILO関係でもWHO関係でも、極力、国際課長と国際企画室長が同席の上で会議を開き、意思決定するようにしていました。いざ国際会議となれば、課長級の上司は数多くいたほうが有利(便利)ですので、それぞれの所掌に関わらず、全体を知っていてもらいたいという補佐以下の希望を反映してものでした。
前回のような積み重ねのほか、こうした幹部の協同での取り組みも増えていましたので、私から国際課全体の組織の見直し=ILOとWHOは本課に、OECDを国際企画室に、実際の業務は、課長と企画室長が共同で実施するという提案を、室長以上が出席する会議で説明したときには、皆さんの賛同を得られると考えていましたが、甘い考えであったと思い知らされることになりました。

 

「将来はわかるが、今やらなければならないのか」「職員の経験、専門性も違っており、見直し後にうまく行くのか」等の懸念が、課長、企画室長から出され、会議は重い雰囲気に・・他の室長から、「では、引き続き検討で」と助け舟を出してもらい、その日は終わりました。
人の心の壁は厚いな・・と思い、あきらめるかとも思いましたが、やりかけたことなので、個別に企画室長、課長と、順次、一対一で説得することにしました。それぞれから呈された「懸念される事項」を払拭するために、課、室の業務だけでなく、課室長と課室の筆頭補佐とを「たすき掛け(課長が旧労働なら課の筆頭補佐は旧厚生)」とするなど、ポストの移動・調整も行い、結構な時間をかけて、何とか合意をとりつけることに成功しました。

 

その後、組織の規定を担当する人事課に総務班長に説明に行ってもらいましたが、そこでは、「数か月の間で2回も規定を変える前例はない」と、役所らしい門前払いにあったと報告を受け・・。さすがに、ムッとしましたが、「人事異動で、課長が旧厚生、旧労働となる度に、組織の規定を変えてくれるのですね」と、念を押して来てくれと総務班長に依頼しました。班長の努力もあり、何とか人事課の形式審査もクリア、私の異動の前に規定も変更と、就任時の目標は達成でき、「一件落着」と思って次の異動先に行きましたが、本当の問題は、ここからでした。

 

旧労働の課長の後任に、旧厚生の人が課長に着任したのですが、さすがに規定の見直しには至りませんでしたが、業務の流れについて、旧厚生は旧厚生で、旧労働は旧労働でとの方針を出し、ステーキを二つに切るように、簡単に元の状態に戻してしまいました。当時、後任の課長の考えは、よくわかりませんでしたが、私自身は、敗北感でいっぱいでした。人の心の壁が、そんなに簡単に変わると思っていた自分が甘かったと・・その後も、組織を作ったり、変えたりする機会がありますが、その時の感覚をいつも思い出しています。

 

あれから10年以上を経過し、私と同世代が国際課長になる時代になりましたが、今は、どうなっているのか、少しは興味があります。でも、最近の厚生労働省の人事異動をみる限りは、一定年齢以上は、未だに「たすき掛け」の人事が続いているようですので、人の心の壁を取り除くのには、10年では短いのだろうと改めて感じるところです。
これはお役所に限らず、合併企業でも同じことなのでしょうが、一旦組織ができると、本当に人とは面倒なものです。