Episode56 「横車を押しきるには 内と外に仲間が必要」

2013年7月18日

(前回から続く)

受け取れないと言われた概算要求ですから、財務省との調整が順調なわけがありません。

 

国際課の財務省の担当は、厚生労働省を担当する厚生労働係ではなく、外務経協係でした。国全体の経済協力(ODA)を統一的に見るためです。特に、厚生労働省は、ODA関係で、過去、大きな問題はなかったことから、他省庁から財務省に出向した主査が担当でした。

したがって、これまでの予算折衝等で培ってきた信頼関係は使えないため、どうしたものかと悩みつつ、主査には申し訳なかったのですが、出向者では、この問題は調整しきれないだろうと勝手に考え、建前論を繰り返して1か月を過ぎました。

 

それと並行して、外務経協係の筆頭主査が誰かを確認し、彼が、過去、厚生労働省に出向していた財務省の人であることを突きとめ、彼をよく知る省内の人間を調べました。1年後輩の人が、主査をよく知っているとのことでしたので、彼に事情を説明し、時間外に、外で主査を合う場をセットしてもらいました。
10月のある日、初対面でしたが、私は正直に、今回の概算要求基準に関する問題の所在、年末に向けての調整方針(ほぼ前年度並みに要求していた拠出金を大幅に削減する予定)を伝え、財務省として協力して欲しい旨を伝えました。
彼からは、概算要求基準で「分担金を裁量的経費にすることは省内でも大きな議論があったこと」「担当主査から、どうしたらよいかと相談が来ていること」「外務経協係として処理すべき大きな問題となっていること」等の話を聞き、最後に、「なぜ、3割もの滞納なのですが? 要求基準の問題ならそんなに大きなはずはないですよね。」と切り込まれました。
一瞬躊躇しましたが、要求直前のできごとを正直に伝えました。彼は、「そういうことですか・・」と事情を理解してもらい、「その方針で、年末までに調整しましょう。」と枠組みが決まりました。

 

その後年末段階で、厚生労働省として調整すべき金額については、ILO関係は早々に決着しましたが、WHO関係は国際課の拠出金カット以外には、大きく進んでいませんでした。そこで、「国際課の私の名前を出してもらって結構だから、各局に協力の回状を出して欲しい。」との要請をしたところ、会計課の予算補佐が協力してくれ、各局に協力要請が出ました。最初に協力をOKしてもらえたのが、当時、社会援護局の総括補佐をしていた松嶋さん(後日、障碍保健福祉部でもお世話になることに)でした。その後は、各局も協力をしてくれるように・・何とか、財務省に約束した金額を捻出することができました。
最終的には、概算要求基準で示された一定割合カットの水準で滞納するという形(さすがに、3割滞納というふざけた要求を全額埋めてもらえるわけもない)となりました。私と会計課の同期は、上々の出来あがりとの認識で、口では「滞納」という日本初の歴史に名を残すのは光栄とは言っていましたが、実際には、少々、嫌な感じでした(少なくとも私は)。

 

それから半年以上を経過して状況を聞きました。
次年度の概算要求基準では分担金は義務的経費となったこと、その年は円高にふれて前年度枠に少しプラスで「満額」要求できそうなことと良い話でした。
恐る恐るWHOの担当補佐に、「滞納はどうなったのか?」と聞くと、なんと、インセンティブスキーム(期限より早く払うと支払いが安くなる仕組み)の見直しで、日本に資金が払い戻され、その資金もあって、結果的には、滞納しなかったとの由。
思わず、「それなら早く言えよ! 知っていれば別の方法もあったのに」と叫びましたが、一方では、歴史に名が残らず、ほっとしたものです。

 

今から思えば、組織の内と外に仲間を得て、乱暴を働いた良い思い出です。
なお、本件について、当時の主査に正式に御礼を言っていないことを思い出しました。この場で御礼を。

当時は、ご協力いただき、ありがとうございました。もう二度と、あんな乱暴なことはしないと誓います。