Episode48 「味方も敵に 苦しくなると相手に譲歩したくなるもの」

2013年4月28日

障碍者自立支援法案の審議も進み、内容の詰めが必要になってくると、関係する議員から、「こうして欲しい」「ああすべきだ」と、国会審議の場に限らず、意見が提示されましたが、こうした内容の変更に関わる対応は、通常、課長のお仕事です。
法律案にも、種々ありますが、厚生労働省の予算関連法案は、かつては、概ね厳しい内容(利用者負担強化など)を含んでいましたので、課長の皆さんは、厳しい調整をしなければなりませんでした。
障碍者自立支援法案も、ご多分に漏れず、利用者負担の見直し(他に比べれば負担額の変動は大きくはないのですが)が含まれていましたので、そこに意見は集中しました。

 

当然、そうなることは予測していましたので、保険局時代の経験を生かして、当初の案から譲歩する選択肢を、内々、複数準備し、財務省と調整を終えていました。

ただし、その内容は、一切、課長以上の皆さんには、伝えていませんでした。

なぜなら、そうした内容を知っていると、人間誰しも、厳しい調整の中で苦しくなって、思わず言ってしまうと、過去の経験から知っていたからです。特に、皆が同じことを言えば、まだしも、複数の課長が、別々に調整する中、それぞれが別のことを言ってきては、収拾がつきません。
そこで、案があることも、財務省と調整済みであることも、直接の担当者に対して、組織内部にも伏せるよう箝口令を引いた状態で、調整が始まりました。課長の皆さんが、調整してきた結果を私のところでまとめて、どのような調整案を出すかを考え、それを提示する。それでも理解が得られない場合には、次の手立てを提示する・・そうした慎重な手順を進め、何とかなりそうな雰囲気が漂ってきました。

 

しかし、ある日、対外的な説明チームの一つである、課長+企画官のチームが、厳しい顔をして帰って来ました。本来であれば、組み合わせからみて、最強のはずなのですが・・
「大変なことになった。○○議員が、これではダメだと言っている。何とかならないか・・」
議員を知っていた私は、「そんなはずはない。何があったのか?」と、その状況を聞くと。
議員が何かを聞き、それに対し課長が回答し、それをまずいと思った企画官が別のことを言い、さらに課長がまずいと思って別のことを言う・・そうした悪循環の状況で、議員はもっと何かできるだろうと考えたということのようでした。

 

それを聞いて、その場面を想像した私は思わず笑い出しそうになりましたが、それを堪えて、「あなた達は、何をやっていのか。一緒に行って、逆に、状態を悪くするのはどうなのか・・。しようがない。それでは、○○という調整であれば、問題ないのだろう。」と、最悪の事態に用意していた案を提示することになりました。これが最後と念を押して。
もちろん、口の悪い私は、二人に「あなた達は、最弱コンビだ。今後は、一緒に行動するな。」と釘を刺すことも忘れませんでした。しばらく、最弱コンビと、部内で、二人が言われたのは申し訳なかったですが・・

 

実は、それ以上の調整案は、持っていなかったので、私としては、「まずいなあ」と思っていたのですが、それ以上の譲歩は必要とはされませんでした。

腹黒い奴と思われるかもしれませんが、ぎりぎりの場面では、こうした手段も必要です。
今では、こうした手法がとれるほど、余裕がなくっているのでしょうが・・