Episode41 「人間なので感情に駆られることも しかし切り替えが大事」

2013年2月18日

(前回から続く)
政府予算案の編成は、例年12月後半に決まりますが、最終的に額が公表される数日前に、事務的な係数処理という期間に入ります。

大臣折衝等の政策的な方針の合意の段階では、大枠が決まっているだけで、最終的な予算の形にするには、1円単位まで数字を固める必要があります。それが係数処理です。

 

さて、企画課長からの悪い知らせを聞いて、財務省の主査に電話した時は、既に係数処理も終わりかけ、明日午前には確定するという、常識的に考えれば、もう新たなことは追加できない段階でした。
 

そうした状況でしたから、「積み上げてきたものが、最後の最後で崩れた」という思いで、私も相当感情的になっており、主査が電話に出たときには、喧嘩腰で問い詰めました。
「○○局の案が変わったと聞いたが本当か。」「なぜ、それを俺に知らせない。知っていて黙っていたのか。」「俺が○○局の案変更を知っていれば、当然、相談に行くはずだが、来ないのを変だと思わなかったのか」・・。予算要求をしている者の立場の発言ではありません。
そして、最後には、「この件に関しては、俺は、お前とはもう仕事はできない。降りた!」と啖呵を切って、そのまま役所を出て地下鉄で自宅に向かいました。
 

15分ほどは感情が収まりませんでしたが、考えてみれば、厚生労働省内の横の連携不足が原因で、別に財務省の責任ではありません。しかし、啖呵を切った以上は、後には引けない・・そうしたことを思いつつ、もし、○○局の最終案と整合性のあるものを作るとすると「こうなるか」・・と、複雑な気持ちで、地下鉄内で考え始めていました。
 

19時過ぎ、自宅で12月になって、はじめて家族と夕食を食べているときに、見知らぬ番号から携帯に電話がかかってきました。役所関係者にも、ごく一部しか教えていなかったので、誰かと思いながら、電話にでたところ、財務省の主査でした。
開口一番、「誰に番号を聞いた?」

○○局にいる私のゴルフ仲間から聞いたとの由。○○局と連携していることが、わかりました。
続いて、「本件は降りたのだから別の人間に電話しろ」

予算担当の松嶋障碍福祉課長とも相談した結果との由。障碍部内も根回し済みと、わかりました。
さらに、「今からやっても、金も時間もない。無理だ。」

主計局次長に直接交渉して、一定額の範囲内で修正もありと、明日の朝までは時間を作ったとの由。枠組みはできたと、わかりました。
最後に、「お前はどうするのか」

できるまで財務省内で待っているとのこと。当方次第ということを理解しました。

 

主査にそこまでお膳立てされると、後は、当方の責任です。松嶋課長と電話連絡し、予算を修正するための計算作業等に必要な人数3名の集合をかけてもらい、23時にお役所に集合です。松嶋課長も、日曜夕刻の部下の結婚式披露宴から直行していたようです。
自宅・移動時間中に考えた制度の修正案を資料として完成させ、3名には、何を指標として計算するかを具体的に指示し、試算結果を見ては案を変え、案を変えては試算しと・・朝7時ごろに、やっと修正案が完成です。

課長には事後報告とし、主査に電話をして財務省説明に。自宅から私服のまま来たので、柄シャツ・セーターでスリッパ履きという「立派な不審者」の外見で・・というおまけつきです。
いくつかやりとりがありましたが、これにて予算セットです。朝の9時。厚生労働省に戻り、私服で省内を歩く姿を、皆が不思議そうに見ていました(当時は、ウォーム・ビズはありませんでした)。

 

企画課長の悪い知らせの電話から、約18時間。極めて感情の起伏の大きい時間でした。しかし、結果的には、財務省主査の冷静な判断、環境づくりに助けられたのだと思います。また、自分がもっと冷静であれば、もう数時間は早く終わったかもしれません。当時のことを思い出すと反省するところ大です。
いずれにしても、財務省主査に彼がいなければ、補助金の負担金化、最終段階での予算額修正など、こうした大きな問題・ハプニングを超えて新制度はできなかったでしょう。
 

先日、彼に会う機会がありましたが、当時の御礼をまた言いそびれました。ここで御礼を。
ありがとうございました。