Episode38 「理不尽なことがあっても 最後は自分で始末するしかない」

2013年1月18日

障碍者に関する新制度の制度設計が甘く、新制度の施行1年で国が市町村等に支払うべき補助金が、数百億規模で大幅に不足し、財政的に破綻したことがありました。前回のコラムで言えば、新商品の失敗です。

 

新商品のキャッチフレーズは、「行政決定である措置制度から、当事者間の契約である支援費制度へ」でした。

 

耳触りは良いのですが、手続きが簡単になったことから急速に利用が増えたたものの、サービスの内容も、財政的な仕組みも旧来のまま(利用契約になれば、少なくとも、財政的な仕組みは大きく変えることが必要)で、いわば、外側の包装を変えただけで本質は何も変わらない「新商品」です。
また、法律制定後、ほとんど何の準備もせず、施行1年前に準備を始めるものですから、異動してきた担当課長は、問題意識を持って、あれこれ試行錯誤するものの、関係者とのコミュニケーションの問題もあって、反対する団体にお役所を囲まれ職員が建物から出られないという事件(写真)が起きました。私も、その日、飲み会の約束があったのですが、役所を出られないので、「今、役所が取り囲まれて、外に出られないので遅れます。」と相手に電話したら、「遅れる言い訳を言うなら、もっとマシなことを言え。」と、本当と思われなかったくらいの珍事です。

この頃は、別の組織にいて、「何やってるの?」という感じでしたが、障碍部に異動してから、認識は一変しました。

 

お役所では、新たな制度・法律を提案する場合には、あらゆる指摘・疑問に応えるため、「想定問答」というものを作りますが、支援費制度も、そうした問答が残されていました。
その中には、当然のように、「もし国の資金が足りなくなったらどうするのか」という質問がありました。回答案は、「支援費の支給は市町村の責任であり、もし、国の資金がなくなり市町村が支給決定をしない場合には、利用者は市町村を訴える・・・云々」と、国の一員としては、恥ずかしくて書けないようなことが記してありました。
もう怒りを超えて、当時の担当者がこんなことしか書けなかった気持ちを思いやると、哀れになったものです。

理念先行の現実性のない制度・・社会保障分野には、たまに発生する事例でしたが、1兆円もの公費を動かす制度では、普通、考えられない事態です。

 

破綻処理をすることとなった当時の幹部は、この破綻状態を介護保険制度と障碍者制度の統合による解決を考えていましたが、実際に関係団体等と接触する機会の多い中堅・若手は、「どう考えてもうまく行かない。特に、利用者負担の問題は難しい。」との意見であり、私も、利用者負担の面で、理解を得るのは難しいと考えていました。
そもそも、誰もが、なぜ、こんな「ばかげた」ことを処理する必要があるのか・・という思いだったでしょう。そうは言っても、市町村に迷惑をかけ続ける訳にもいかず、また組織の方針ですから、課長の方々は、当事者団体と意見交換をしつつ、私も「支援費制度の失敗」という資料を作り、お役所を取り囲んだ団体幹部等に対し、制度としての「財政的な欠陥」を説明し、制度の持続のためには、改正必須(介護保険とするかどうかは別に)と説得していました。

 

この説明には、ほとんどの方が、吃驚されたようです。
お役所が、先の制度を、ここまで否定するのは、初めての経験だったからです。お役所では、先の失敗を認めることに潔くない傾向があります。組織の失敗、先輩の失敗を認めることになるからです。ちなみに、支援費制度を主導した当時の局長は、今でも、あれは失敗ではないと言っているようです・・が、どう考えても、理念以外には、失敗していない理由は思いつかないので、正直に言うしかなかったのです。

 

これらを通じ、少なくとも、支援費制度は「廃止」しないといけないことは、合意されました。
しかし、説得した以上、新たな枠組みを提示し、実現する十字架を背負ったことは、正直、精神的な重荷でした。