Episode32 「最もよい相談相手 それは真面目に考え反対する人」

2012年11月18日

お役所の仕事は、諸手を上げて賛成されることはありません。
まず、その立場によって、「理論的な正しさ」は違いますから、何が正しいかを巡って不毛な時間が過ぎ、身動きとれなくなることが よくあるのが日本の現状ですし、理論的には正しいことが認められても、それによって不利益を受ける人がいれば、実施にブレーキがかかり、少なくとも、不利益を受ける人に一定の対策を講じることが求められます。
数十年前の高度成長期であれば、自然と税収が増えており、財政的な対策を講じることで解決もできたのでしょうが、今は、そうした野放図なこともできません。

 

さて、私は、不思議と財務省関係者との付き合いがありましたが、彼らとの親交の中で、教えてもらったのは、「相手の信頼を得ることに全力を尽くしている」ということです。
省庁の中の省庁と言われ、また財務省支配などとも揶揄される財務省ですが、冷静に見れば、彼らほど、増税(国民負担増)・歳出削減(既得権益の削減)と、政治家の皆さんの嫌がることを主張し続ける存在はありません。本当に省として力があれば、主張する内容は、既に実現しているはずです。
彼らは、政治家しか決められない増税・歳出削減を実現するために、他省庁がやっている何倍も、賽の河原のように政治家の信頼を得ることに努力していることが透けて見えます。

 

私も、彼らほどではありませんが、医療観察法の施行準備段階では、反対する側の信頼を得るべく地道な思考・行動を繰り返していました。
一つは、法成立時に反対した議員の中でも、理論的な支柱となっていた議員(既に引退)の会館事務所(写真は今は新しくなった議員会館)に、頻繁に煙草を吸いに行っていました。
特に、求められて説明に行くという訳ではなく、1~2週間に1回は、勝手に顔を出し、施行業務で悩み困っていること、新しいアイデアなどを、独り言として話をしていました。
議員の方も、ふんふんと聞いているときと、うん?と反応されるときがあり、後者の場合は、当方の考え方に納得できないときのサインでした。こうした反応を見ながら、自分の考えに固執することなく、アイデアを再構築したりと、思考実験を繰り返しました。
議員も「法律自体は反対したが、成立した以上は、できるだけ良いものにするのも野党の役目」という立場の方でしたので、逆に、こちらの気づかない課題も指摘していただいたりと、役所内では得られない貴重な時間でした。

 

もう一つは、いずれ行うことになる新病棟建設に係る住民説明に向けての思考実験です。
この病棟の性格上、「はい、わかりました」と円滑に進むとは考えられず、どのような理由で反対されるか、どのような心配が示されるか、具体的にどのような条件が示されるか・・仮に、自分の家の近くに来たら、自分はどう反対するかとの視点で考え続けました。
それぞれの回答となる対策を事前に作っていくことで、病棟整備に係る内容は、より詰まっていきましたが、その場しのぎの「いい加減」な答えはできない性格もあって・・予想される最後の質問にどう考えるかは悩みました。
最初の説明会当日、「地価が下がるので反対」などの極端な意見もありましたが、最後に、予想通り、「あなたの家の隣に作っても心配ないのか?」という質問が出ました。
「そうした心配を皆さんに与えないよう、私として、できる限り、万全を尽くしたい。」と、当初考えていたものとは違う、個人の心情を伝える回答が自然と出ました。
 

その後、市役所を通じて届けられた意見等は、当初予想とは違って、危険性を過剰に心配するものではありませんでした。私としては、質問・意見に一つひとつ丁寧に説明し、「少しは信頼してもらえたのか」と思いましたが、逆に、そこで約束したことを確実にしなければならないと気持ちを新たにし、設計部門に強く指示したことを覚えています。
議員とのことも、住民とのことも「相手の立場で考え、話さないとわからない」ということを実感した事例です。