Episode25 「国家公務員は、いつの時代も悪役」

2012年9月8日

国家公務員であった20年余の期間で、仕事の結果について、自分自身で達成感に浸ったことは数多くありますが、外部の人に「よくやった」と褒められたことは、残念ながら皆無です。

 

特に後半の10年間は、国の財政の厳しさを反映して、財政的に縮減または伸びを抑える改正=利害関係者の利益を下げる内容ばかりでしたから、ほとんどの関係者に、厳しく言われることの繰り返しでした。
そうした嫌な仕事を長年やれた内心の考えは、「誰かが悪役にならないと、日本では、国としての意思決定ができない」というものでした。

これは、役所に入った際に、10年ほどの先輩に、「国の役所の仕事は、誰もが嫌がることを引き受けること」と言われた経験に基づくものです。

 

この国の意思決定は、今のところ、内閣の提案で、最終的には国会(写真)の議決で決まります。
誰も反対しないようなものであれば、国の意思決定自体が不要も同然ですが、問題は反対する人が多い利害相反の場合に、どのように意思決定をするかです。
昔から、外交と社会保障は、与野党が対立する分野です。社会保障分野では、伝統的には、国の役所が厳しい案を提示し、与野党の調整により、利用者負担軽減などの緩和策を講じることで、政治家が有権者の理解を得るという「合意形成プロセス」が存在していました。
役所が悪役を演じて、政治が善政を行うという形式です。選挙で選ばれる政治家に厳しい判断だけを求めても無理であり、「強引な役所の提案を、政治の力で、ここまでで止めた」と言える環境を作ることで、厳しい改正内容を一歩一歩実現したのです。
このプロセスを全うするため、私が30歳前後のころは、政府案を考える段階から、最終的な与野党調整に向けて、いくつもの見直し案を考えていたものです。

 

しかし、私が40歳前後になった頃には、政治の弱体化・流動化が進み、こうしたプロセスも影を潜めました。政治が、世論をリードするのではなく、世論に左右されるようになってきたという変化を背景にです。そうなると、役所側は、将来を見越して必要と考える厳しい内容の改正を実現するために、それまで以上に、政治との調整に時間をかけるようになりました。
政治の弱体化・流動化がより一層進む現在は、政治だけでやっているので決まらないのか、役所が水面下で調整しても決められないのか、よくわかりませんが、いずれにしても、国民の意見が異なる案件の意思決定について、先送り以外には、安定したプロセスがないことは、時間のロスを含め大きなマイナス要因と考えられます。今回の消費税の引き上げ騒動も、政治的な未成熟さを露呈しただけと考えます。

 

政権交代後、シロアリ官僚などと言われましたが、既に役所を辞めた私でも、さすがにムッとするような論調ですので、現職の皆さんのモチベーション低下で、仕事のレベルが低下していないか懸念しているところです。
私から見ると 国家公務員が受けている今の批判の多くは、弱体化・流動化した政治に起因するものと思えてなりません。