Episode20 「おかしいものはおかしいと言わないと 後悔する」

2012年7月18日

病院のモチベーションを高めつつ、実効性のある投資プランを作るかが大型投資をする際のポイントですが、実際には、その例外的なものとして考えられていたものが、国直営時代の残りものである「病院の統廃合」でした。
その一つである西札幌病院と南札幌病院の統合については、いずれも年間数億の赤字を出す経営不振の2病院を統合し、西札幌病院の地に新病院を建設するという内容でした。

 

その新病院の機能・収支見込みの検討は企画経営部が担当しており、財務部は、当初、設計等だけを行うという役割でした。しかし、どう見ても、計画内容は、医者を増やす、病院が新しくなると患者が増えるなどが中心で、病棟構成・規模なども、効率性の面から検討されているものとは考えられず、特に、両病院とも「本部で考えるのでしょう」との雰囲気がありありと感じられ、自ら、それに向け積極的に考える姿勢は感じられませんでした。いわば、「作ってもらう」という姿勢でした。
また、投資総額自体は、私の前任の財務部長が上限枠を決めていましたが、それに基づいて建設プランをたてると新病院全体を建設することは不可能であり、既存の施設を改修して利用するという設計内容でした。しかし、個人的には、それですら開設後に経営自立できるとは思えませんでしたので、一層の効率化を病院に提案していました。

 

さて、設計図もでき、構造計算も終わった段階で、突然、新任の経営担当の理事が役員会で、この病院の建替えを話題にしました。この病院に出張に行った直後で、病院から、「全部建替えたいのに本部が認めない」「工事のために仮設を建てたいのだが本部が認めない」などと陳情を受け、各部長に「なぜ認めないのか」と、役員会で聞いたのです。
その病院のこれまでの経営状況や対応を見れば、誰でも、「無理なことを言っている(それを言うなら病院の経営改善が必要だが、一切進んでいない)。」と思うのですが、「それも知らずに出張に行ったのか」と不思議に思いつつ状況を説明しました。
残念ながら、その理事は、その後も「病院の意見を聞くべき」と主張されるので、「理事が経営改善や建設後の資金返済も含めた責任者になって話を進めてください。財務部は設計だけ、やりますから。」と、私は匙をなげ、冷やかに状況を見ることにしました。

 

それから5年以上を経過し、現在、統合後の北海道医療センター(写真)は、古い建物を一切使うことなく新設病院となりました。その意味では、国時代と同じく「陳情」した当時の病院幹部は成功したのでしょう。
しかし、その経営結果は、開設後2年連続で8億を超える大赤字(平成23年度結果は不明ですが)となりました。病院建設だけを考え、その後のことを、ほぼ事前に何も考えていなかったのですから、結果がついてくるはずがありません。この当然の結果を見ると、当初から予想されたものを、当時、役員との不毛な議論に嫌気がさして、避け得るための取り組みを「やり抜けなかった」こと=サラリーマンに徹したことを、個人としては後悔するところが大きくあります。

 

最近まで、病院HPには、「消防等からの救急要請に対し、受け入れできなかった件数の救急要請総数に対する割合は10%で、理由別では『重症病床が満床』が一番多く34%を占めていました。」と書いてありました(経営結果を残しているNHOの病院では、在院患者のベッド管理を変えるので重症病床の満床を理由に入院を断ることはありません)が、こうした点の努力の弱さも、大型投資の前に病院経営層に「自分で作り資金を返す」という覚悟がなかったことが反映しているのではないかと感じていました。
しかし、この4月の院長交代後、こうした記載も消え、新たなスタートが始まったようです。どのような意識改革を進め、自立した病院へと成長できるか楽しみにしています。