2012年7月8日
赤字病院の建替えが進み出すと、建設投資による経営改善が全て成功する保証は当然ありません。他病院との競争の結果、病床利用率が大幅に低下したなど、その前提条件が崩れることもあるからです。
この解決は、投資決定をした当事者が、病院・本部に双方残っている場合には、割と簡単です。双方の約束事項が明確であり、「逃げ口上」が言えないからです。
財務部長時代の終盤には、こうしたことも意識して、役員会で最終的に決定する日の午後に、病院の経営層の方を本部に招いて、理事会での模様、今後の条件、期待するものなどを、私から直接話をしていました。当時は、特に、病棟の建て替えが多かったことから、看護部長に役割をきっちりと認識してもらうことに重点を置いていました。
「この病棟は、看護部の頑張りで実現するものです。」と、明確に名指しでお話をし、「もし、前提となる条件が達成できないと認められる場合には、工事着工自体を延期・凍結します。」と強調しました。
話をするだけではなく、実際に、工事手続きの凍結を宣言した事例もあります。
年度途中の経営状況では、建設投資の前提となる数値を達成できそうにない2病院(投資決定自体は私の着任前)がありました。一つは、少し息を抜いている病院、もう一つは、明らかに経営停滞しつつある病院と見ていました。
息抜きをしていると見た埼玉病院には、牛島院長(当時)を訪問し、病院の経営層が集まっている中で、「もし○○の条件を達成できない場合には、リスクが高いので貸付金利を高くします。」とお伝えしました。他の経営層がいなくなった後、当方の意図を承知している牛島院長からは、笑いながら、「うまくのせられているよね」と一言。短期間で経営結果が好転しました。
一方、本来的に、建設投資決定段階の意識づけが弱く、当時、計画していた経営状況に遠く及ばなかった千葉医療センター(写真)については、あえて本部に、院長他の経営層に来ていただき、3か月間で経営改善が図られないようであれば、工事着工を凍結するとお伝えしました。
当然のように、病院の皆さんには「当初想定したものと状況が変わった」から「一度決めたものを変えるのは約束が違う」まで 種々、言われましたが、埼玉病院で行っている努力内容などを伝え、「そうしたことを実施して結果が出れば、工事を進めます。」と冷酷に通告。帰り際に拝見した副院長の顔が怒りに満ちていましたが、国直営時代からすれば当然のことでしょう。
その直後、病院からクレームを言われた厚労省からの出向役員から、「凍結とは無謀ではないか。凍結によるロスは誰が責任を取るのか」と役員会で責められましたが、「他の公共工事の談合で大手の建設会社は入札禁止期間に入っており、3か月は入札公告をしても無意味。この3か月で経営改善を促す意図です」と、なぜ今、これを実施するのかをお伝えしました。どうぜ入札できないのなら、この期間を、うまく使おうと思ったということです。
3か月後、同じく本部で、病院経営層一丸となって経営水準の向上を達成した経営層と面談し、工事進行をお伝えしました。会議後、一人残った看護部長から「病院を締めていただいて感謝します。あのままでは、病院建築は厳しかったでしょう。」と言われ、嬉しく思ったことを憶えています。
現在も、千葉医療センターは、黒字であるものの、当初予定通りの経営結果は出ていないようですが、当時の「反発心」を忘れずに、頑張って欲しいと思っています。
さて、財務部長を辞めて数年を経ましたが、当時進めた建設投資の結果も、ほぼ出揃い、当初予定通りにいかなかった例もあると聞いています。現在の部長が、「どうして、こうしたことをしたのですか?」と聞いたところ、病院から「北川元部長が、そうしろと言った」と回答したとのこと。
病院の経営層の変更、本部のスタッフの異動等の狭間で、こうした「言い逃れ」が通用しているのは、残念というか、面白いというか。当時、建設投資は病院が行うものと徹底していたのですが・・・
病院に、こうした国直営時代と同じような「他責」の文化が広がっているようでは、国立病院機構の将来も厳しいでしょう。ぜひ、1病院での話であって欲しいものです。