2012年6月28日
国立病院機構の建築コストが下がったことで、赤字の病院でも建設投資の際に、医療の提供体制を見直すことにより、理論的には資金繰りを成立することも可能となりました。
当初は、黒字の病院だけを建設投資の案件形成の対象としていましたが、ある程度は、パターン化できましたので、そろそろ次の段階=赤字の病院の建替えに着手しようと考え始めました。赤字病院群の経営改善に向けたモチベーションを高めるためです。
もちろん、赤字には、それなりの理由がある訳ですから、建設投資の相談の中で、それを改善するポイントを自ら見つけ、それを確実に実施してもらえる相手であることが必要です。特に、大型建設投資を再開した段階では、本部をはじめ、他の黒字病院の院長の皆さんも赤字病院を見る目には厳しいものがありましたから、最初の赤字案件で失敗するわけには行きませんでした。もし失敗すると、その後の展開が、慎重になりすぎて停滞するからです。
そこで、財務部のメンバーと、企画経営部がまとめていた月次決算を眺めつつ、財務部で作成した投資格付けを参考に、可能性のある病院を選び出す相談を始めました。立地からみて競合状態が厳しくはないこと、算定する病棟入院料のスタッフの基準数を実際の病棟スタッフ数が大きく上回っていること、診療部門でも職員当たりのサービス数が少なく改善余地が大きいこと、病院経営層の意欲が高いことなどから、いくつかの候補を選び出しました。行ったことのない病院は見に行って経営層の意欲等を試したり(候補選定の話は内緒で)しつつ、最終的に、赤字建替え第1号候補は、東広島医療センターとしました。
この病院は、財務部長就任当初に訪問した病院で、国直営時代の施設整備の定番である「まず職員宿舎を建替えて・・・最後に病棟」という手順に従い、新しい職員宿舎と古びた病棟(当時)のコントラストが目立っていました。
経営的には、国立病院機構発足後、2年連続で、2.5億を超える赤字を出していました。原因は急性期病院になりきれないこと=病棟のスタッフ数は十分なのですが、平均在院日数要件をクリアできずに低い単価の入院料しか算定できていないという点でした。過去の療養所体制の「のんびり」した文化から抜け切れていなかったのでしょう。
さて、中嶋課長を通じて、赤字病院建替え第1号候補であることをお伝えし、事務部長等と資金繰りの相談を始めました。最大の争点は、平均在院日数を短縮することでした。
数度相談しましたが、事務部長は、在院日数の短縮により病床稼働率が落ちることを心配し、また病棟の現場が動かないと、繰り返し言うものですから、「3か月 差し上げます。この間に、平均在院日数の短縮ができなければ、この話はなかったことにします。」と、厳しい口調で最後通告をし、病院が覚悟を決めて行動変容するかを見守ることにしました。
すると、3か月も経たないうち、事務部長から「在院日数をクリアした」との嬉しい連絡があり、その理由を聞くと、看護部が全力をあげて目標達成に動いたとのことでした。
建替えという現実的な目標を得て、現場が動いたということです。
病棟建替えも役員会で決まり、これを契機に、地域の中核の急性期病院として種々の機能を身につけ、病棟竣工の前に2億近い黒字を出すこととなりました。その後も健全経営を継続し、本年3月には、建設投資の仕上げとして、外来・管理・中央部門の建替えに加え、結核病棟のユニット化、東広島市に熱望されていた周産期医療の整備を開始したとの由。
赤字病院への建設投資の成功例として、今後も具体的な目標を持って、頑張って欲しいものです。