Episode15 「トップは個別交渉に強くなければならない」

2012年5月28日

国の役所の仕事をみていると、ルールを作ることばかりに力を注いで、そのルールが目的通りに動いているかどうかを検証し関与するという意識の弱さを、よく感じます。

問題がマスコミ等を通じて表面化すると、「指導通知」を出したり「規制強化」をすることはしますが、本当の問題の所在を徹底的に確認し現場に指示するようなことは、多くはありません。特に、直接執行業務のない間接行政の役所に、その傾向が強く見えます。

 

しかし、現場の直接執行業務の塊である国立病院機構では、このルール通りに運用するため、現場はもちろん、時には外部との個別交渉力が強く求められます。個人的には、財務部長自らができないものを、病院に求めることはできないと、当時、考えていました。こうした認識を持てるかどうかが、国の人事で国立病院機構に出向した場合に大きな壁となります。お役所仕事で終わるか、経営者に近づけるかという違いです。
さて、国立病院機構の発足段階で、国直営時代からの継続工事も残っていましたが、その中で、静岡医療センター(写真)の建替えに係る分割発注の最終契約が、私の仕事となりました。

 

国直営時代は工事単価が高く、静岡医療も国直営時代の契約分は相当高い水準でした。その工事内容も、外来等を先に整備し病院収入の大半を占める病棟は最後という、事業投資の発想とは全く逆の、伝統的な国立病院の「施設整備」のパターンでした。今でこそ黒字ですが、平成17年度決算では、経常収支は5億近い赤字と不振に喘ぐ状態で、とても従来の価格で経営自立できるような見込みはありませんでした。
その頃は、まだ小規模案件のチャレンジは動いていませんでしたので、病院の価格交渉だけでは、うまくいきませんでした。建築会社側が、国時代と同じと思っていたようです。
一方、私自身は、財務部長就任後、建設関係事業者との面会予約は、全てお断りしていました。いずれ大きく価格水準をカットするつもりでしたので、あまり面識がないほうが、やりやすいですし、そもそも他にやることが沢山あり、それに時間を振り向けるのを惜しいと思ったからです。

 

そのうち、昔の知り合い(民間の方)から、「財務部長に会おうとするだが、ガードが固くて一切会えない。どうしたら良いかと相談を受けているのだが」という話を聞き、建設会社側の人が、そう思っているのであれば、そのことを利用して、静岡医療の価格交渉ができないかと考えました。
整備課長(当時)の中嶋さんを通じて、工事を継続する建設会社の方に、「最終工事の価格の件」と具体的に内容を伝えていただき、一定の期間を置いて(先方が内部検討をしていただく時間確保の意味)、本部で、お会いすることとしました。
トップの直接交渉の始まりです。
今後の国立病院機構の建設投資に関する規模の見通しと価格水準の方針、本件はそれを実現する試金石であり本部とし最重要視していること、中途半端な価格で妥協することはないこと、しかし工事期間の大幅短縮とのバランスは考えることなどを、強くお伝えし、先方から、できること、できないことをお聞きし、できないと回答されたことについては、当方から具体的な提案をして再考を依頼し、最終的な病院との価格交渉としました。
 

後日、病院から聞いた価格は、現在の水準よりは、幾分高いものの、当時としては満足いく水準でした。この交渉の中で、大型案件に関する価格カットが成功する確信を持てました。